指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

また思い出話、あるいは「Seven and the Ragged Tiger」。

あどりぶシネ倶楽部 (ビッグコミックス)

あどりぶシネ倶楽部 (ビッグコミックス)

 

  浪人してた下宿では週にひとり一冊ずつ漫画雑誌を買って計六誌か七誌をみんなで回し読みしていた。自分で書いててなんかすごく楽しそうだ。その中の一冊に「ビッグコミックスピリッツ」があった。当時は月二回刊で池上遼一さんの「傷追い人」とか高橋留美子さんの「めぞん一刻」とか吉田戦車さんの「伝染るんです。」とか相原コージさんの「コージ苑」とかが連載されていた。「めぞん一刻」なんて展開が気になって毎号首を長くして待っていた。その他に巻頭で読み切りの短編が掲載されることがあってそのクオリティーも高かった。中でも村上もとかさんの「NAGISA」と細野不二彦さんの「あどりぶシネ倶楽部」は大好きでようやくまとまった単行本を買ったのは大学に入ってからだっただろうか。最近読み返してないけど家中探せばどこかにあるはずだと思う。思い出したら急に読みたくなった。
 後者はある大学の映画を撮るサークルのお話で中に素人バンドのミュージック・ヴィデオを撮るエピソードがあった。そのバンドのリーダーを務めるヴォーカルに対してヴィデオを監督することになった映画サークルのメンバーのひとりは初めなんとなくなじめない印象を持つ。でもあるときレコードショップでレコードを探してるところでヴォーカルと行き会い何を探しているのか尋ねられてアルバムの名前を言うとそれは自分がこの店で買ったばかりだから見つからないはずだとヴォーカルから告げられる。後日撮影の合間に監督はヴォーカルからそのアルバムを録音したカセットテープを手渡される。ヴォーカルが思ったほど嫌な奴ではないと監督が気づくシーンでふたりのほのかな友情をおそらくは引き裂く形の結末に向かって重要な役割を担っている。このときのアルバムがデュラン・デュランの「Seven and the Ragged Tiger」。一時期僕も欲しかったけど縁がなかったと言うか結局手にすることのなかったアルバムだ。デュラン・デュランについて図書館で検索するうちこの懐かしいアルバムタイトルを見つけて聴いてみたくなった。知ってる曲は「The Reflex」と「Union of the Snake」しかないのでとりあえずそれらを聴くと頭の中にあるダンス・フロアには前者より後者の方がふさわしいとわかった。なので差し替え。
 今回の曲のコレクションもこれで大体おしまいになったんじゃないかと思う。曲の追加や削除、差し替えも最後かも知れない。CD一枚に収まらない量になったので収まる分だけ焼いてCDプレイヤーに入れてランダム再生をかけると我ながら惚れ惚れする出来になっている。このよさが本当にわかってもらえるのはあの頃一緒にディスコに行った同宿の友人たちだけかも知れない。いや個人的な好みを考えるとやはり完全な自己満足に終わってるかも知れない。
 「ビッグコミックスピリッツ」は「めぞん一刻」の連載が終わった後だったと思うけど週刊になりそのせいかどうか徐々におもしろくなくなっていつしか読むのをやめた。十代の終わりから二十代の始めにかけて割と大切にしていたものをほぼ時を同じくしてなくしてしまった。それらのある部分は取り戻すことができるし実際四十年近く経ってから取り戻したけどもちろん取り戻せないものもある。自分は本当はあの暗いダンス・フロアに立った背の高い素敵な彼女を今でも心のどこかで探してるのかも知れない、と思う。元気でいれば僕と同じく五十代半ばを過ぎてるはずだけど。