指栞(ゆびしおり)

すまじきものは宮仕え。

意外とウケない。

 毎年ハロウィーンやクリスマスの前には教室を飾り付けしてる訳だけどこれが生徒さんたちには意外とウケない。まあ男子生徒はなんの興味もないかも知れないけど女子も少なくとも表面上は特に興味を示さない。これまで興味を示したのは塾の前を通るもっと小さな子供たちで磨りガラス越しに見える飾りを見つけては、あれはサンタさん、これは雪だるまさん、とかわいい声を張り上げるのが聞こえたりした。
 ところがこの前体験授業にやって来た小学五年生の女子の生徒さんは入って来るなり飾ってあったコンコンブルのフィギュアを指差して、かわいい、と一緒にやって来たお母さんに向かって小さくでもうれしそうに言った。言うまでもなくこういうのはこちらとしても大変うれしい。用があると言ってお母さんが中座する間に休み時間をつくるとフィギュアを一点一点丁寧に見て回った後本棚にある絵本を興味深げに眺めている。好きなの読んでいいよと言うと「おしいれのぼうけん」を手にとって読んでる。なんか好奇心がすごく豊かなようにも見受けられる。
 あとでお母さんと話すと確かに好奇心も旺盛で本もよく読むんだけどどの教科でも問題を解くスピードが遅くて前の塾ではそのことを過度に指摘されて行くのがいやになってしまったとのこと。でも、このスピードという問題をクリアしないと志望の中学校に行けないということで問題を解いてもらうと確かに多少時間はかかる。でもほとんど全部正解できている。つまり能力には問題ないけど性格的にスピードというのを重視しない要するにのんびり屋さんのように思われた。こういう子にスピードを求めるというのは本来好きではない。最終的にはできるんだから自分のペースでやればいいじゃんと考えてしまう。大体僕にしたところが自分に対しても特にスピードは求めない。合理的にとか効率的にとかは考えるけどそれはすなわち速くということではない。無駄を省きたいだけだしその無駄も意外と必要な場合もあると心のどこかで思っている。でもそれでは受験に受からないということでは致し方ない。こちらだってひとりでも多く生徒さんが欲しいしそのためには相手のニーズを満たさなければならない。ただそれとは別にコンコンブルと塾の本棚を気に入ってくれた生徒さんとは心のどこかで何かが通じていたらいいなと思う。はかない願いだ。
 即決かと思ったらその後二日にわたって音沙汰無しで駄目かと一時は諦めかけたけど(経験から言って即決か遅くとも翌日までに連絡がない場合は入ってもらえる確率がとても低くなる。)子供がとても楽しかったと言っているというメッセージと共に入塾希望のメールが来た。よかった。解くスピードを上げるためにどんな手を講じるかは秘密。