指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

僕が聴いているのは、結局YMOと坂本龍一さんなんじゃないだろうか。

音楽図鑑

音楽図鑑

  • アーティスト:坂本龍一
  • 発売日: 1989/11/12
  • メディア: CD
 

 ダンス・ミュージックを中心に1980年代の洋楽(もっと他にいい言い方がないんだろうか。)をここしばらく聴き続けて来てひとつ気づいたのは結局僕が聴いてるものの多くはYMO坂本龍一さんなんじゃないかということだ。そう言っていいほどそれらの曲は彼らの作品の潜在的な影響下にある。聴いていて気持ちよかったりいいなあとしみじみ思うものを音楽の分析的な概念などひとつも知らないままそれでも自分なりの少し分析的な目で眺めるとその多くにYMOないし坂本龍一さん的な要素が隠されているような気がする。
 たとえば今回集めた中でひときわいいなあと思うミュージシャンにトンプソン・ツインズがあるんだけど「Hold Me Now」などメロディーラインこそ彼らのオリジナルなものに思えさえすれアレンジはYMO坂本龍一さんにとてもよく似ていると思う。すると僕がいいと思ってるのはトンプソン・ツインズなのかそれともYMOないし坂本さんなのか自分でもよくわからなくなってくる。僕はただ単に向こう側に透けて見える坂本さんたちの作品に陶酔してるだけなのかも知れないと。もちろんトーマス・ドルビーのようにあからさまに坂本さんへの親近を表明してるアーティストもいる。彼の代表曲(と言っていいと思うんだけど。)の「彼女はサイエンス」の歌詞の中には「Miss Sakamoto」というフレーズまで出てくる。
 YMOもしくは坂本龍一さんの洗礼を個人的には三回も浴びている。一度は高校生の頃YMOがブレイクしたとき。高校の友だちにアルバムを持ってる人がいてカセットに録音してくれたんじゃないかと思う。ファーストアルバムとその他二、三枚を持っていてよく聴いた。本当に今までまったく耳にしたことのない音楽だと思った。その少し前にはやったアーケード版のゲーム「バルーン・ファイト」の効果音を再現したものなんかもおもしろかった。今でも彼らの重要な要素のうちのひとつは幼児性なんじゃないかと思っている。音のどこかに子供っぽさがいつも隠されている気がする。それがゲーム音楽の再現という彼らの目の付け所に象徴されているように思われる。二度目は前にも書いたけど浪人してるときにラジオから流れてきた「Merry Christmas, Mr.Lawrence」。そのときはAM放送で音は悪かったけどそれでも心の芯に突き刺さるには充分な衝撃だった。以来何百回聴いたかわからないけどいつ聴いてもすばらしいと思う。それから大学のときに初めて聴いた坂本さんのアルバム「音楽図鑑」。当時通っていた喫茶店の常連さんどうしが結婚してたまに僕らを食事に招待してくれた。奥様の方が音楽関係の仕事をなさっていて家には立派なステレオがあった。そこでたまたままだ発売されたばかりだったLPの「音楽図鑑」がかかった。すでに食事が終わってそれぞれ飲み物を片手に談笑している時間帯だったんだけど聞こえてきた一曲目の「TIBETAN DANCE」からものすごくよくて許しを得てステレオの前の床に陣取って黙って一曲一曲味わいながら聴いた。どの曲も本当にすばらしかった。もちろんYMO体験で自分の中に受け入れる準備が充分にできていたことも大きいと思う。
 YMO坂本龍一も世界性を獲得していた。だから彼らの影響はワールド・ワイドだった。それが少なくとも1980年代の洋楽に色濃く感じられるのは考えてみれば全然不思議じゃない。今回それに今更ながら気づいてひとりで大騒ぎしてる訳だけど。それからもうひとつ気づいたあまり認めたくないことがある。それは知識を必要としなくてもわかるものはわかるということだ。YMO坂本龍一さんの良さはなんの知識も必要とせず作品対自分というシンプルな構図の中でダイレクトにわかる。でもこのわかりやすさをたとえばある種の小説作品に対して感じることは少なくとも自分にはない。小説を読むには向いてないということだと思う。まあ若い頃からうすうすわかってたことだけど。