指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

毎日来ている。

 母親は僕にそれなりに習い事をさせたかったようだ。幼稚園でヤマハ音楽教室が週に一度普通の園児たちが帰った後に開かれていて楽器はオルガンだったんだけど習うことになった。でも行ってみると全部で七、八人いた園児のうち男子は僕だけでそれがいやでいやでたまらず泣いて行くのを断念してもらった。三回くらいしか通わなかったと思う。それから小一のときには小学校の近くにあったお寺の書道教室に通わされた。これも行くのが本当にいやだった。何がいやだったかと問われてもよくわからない。お寺のいかめしい雰囲気だったのか書道そのものだったのか友だちと遊べなくなることだったのか。ただものすごく暗い気分で歩いて行ったことだけはよく覚えている。これは小三の夏休み前に転校するまで通った。一段くらいまで上達したけどその後結局なんにもならなかった。それから小五くらいから近所の退職した校長先生が教えてくれる学習塾に通った。勉強はそこそこできたのでこれは特にいやではなかった。夏には休み時間に冷たくて甘い麦茶がふるまわれてうちでは麦茶に砂糖を入れなかったのですごくおいしいと思って飲んだ。同じ頃ボーイスカウトにも入って中一の終わりにまた転校するまで続けた。これはとても楽しかった。それについては前にもどこかで触れたかも知れない。中二から中三にかけては受験のためにまた学習塾に通った。勉強はきつかったけど塾は特にいやではなかった。先生はとても気さくなおじさんで今でも親近感を持っている。まだご存命だろうか。という訳で習い事はどれもいやだったけど学習塾的なものはそれほどいやでもなかったということになると思う。
 なので行くのがいやな塾にはしたくないと思っている。すごく厳しいとか宿題が多いとかチェーンの学習塾なんかに関してもいろいろ噂を聞くけどそれが特に気にならない生徒さんは行けばいいんじゃないかと思う。でもそれはやだなという生徒さんもいるだろうしそういう生徒さんがある程度気楽に通える塾というのを目指している。勉強というのは基本的にはひとりでするものだと思う。でもわからなかったり不得意だったりしたときに、こう考えたらわかりやすいよ、とか、こんな風にすればできるよ、とかひとつひとつ提案できればそれがいちばんいいんじゃないかと思っている。それじゃいい学校に行けないと言われるかも知れない。でもはっきり言えば勉強というのには多かれ少なかれ向き不向きがある。そしてその多様性に見合った様々な勉強のしかたというのがある。進学塾に入って、普通に生きてたら一生お目にかからないような難問を解くことだけが勉強ではない。
 と本題からすごく回り道したんだけどとりあえず毎日来たいと言っていた最近入った小学五年生の女の子は本当に一日も欠かさず土日も含めてこれでもう三週間近く塾に来ている。ただしどうも彼女の場合は事情が少し違うみたいでお母さんが厳しいので塾に息抜きしに来てる感がある。全力でというのではなく流して問題を解いていてまあそれはそれでいいのかなと思って見ている。ただ厳しいお母さんというのは往々にして上述のような僕の考え方にはそぐわないようだ。そう遠くないうちに辞めるんじゃないかと思っている。