指栞(ゆびしおり)

すまじきものは宮仕え。

もう悪口は言わないと一瞬だけ思った。

 生徒さんからの入金があったり諸々の支払いがあったりするのでスマホにアプリを入れてふたつある銀行口座を毎日チェックしてる。今日は持病の薬をもらいに病院に行く日で待ち時間の間に何気なくアプリを立ち上げると片方の口座に56万円振り込まれていてたまげた。どこからかと思ったら子供の大学からで奨学金がもらえると大学の方で入学金や授業料を減免してくれるという話は前にも書いたと思うけどその減免分の振り込みが6月下旬だった。まだ下旬じゃないけど今日振り込まれていた訳だ。でもまさかこんなに返ってくるとは夢にも思ってなかった。と言うか減免額の通知はもらってたんだけどよく読むと微妙に計算が合わないのでそれなりにまとまった額が返ってきそうだけど具体的にいくらかはわからないなという感じで過度に期待すると後でがっかりすると思ったので実際に振り込まれるまであまり考えないようにしていた。今確認すると入学金と授業料を合わせて百何十万円のうち前期分として74万円弱を3月に振り込んでいる。そのうちの56万円が返ってきたということになるんだと思う。そんなに?何かの間違いなんじゃないかという気がしないでもない。後で間違いでした返して下さいと言われても困るけどまあ先方もそういう手続きのプロだと思うので大丈夫と信じることに決めた。後期分は別途支払うんだろうか。それとも後期分まで含めて今年の授業料の話はもう済んじゃったんだろうか。その辺もよくわからない。もしも最も楽観的な見通しをすると年間の授業料は20万円弱なので給付型(返済不要)の奨学金だけで四年間の学費を払って何十万円かおつりが来る。もう少しだけシビアに見て前期20万円後期20万円という学費だとしても給付型の奨学金だけでまかなえる。いずれにせよ貸与型(要返済だけど無利子)奨学金は丸々手元に残る計算だ。ということは返済のことは一切考えなくていいということだ。これから四年にわたって毎月振り込まれるお金をそのままプールしておけば後は子供が卒業してから15年間毎月引き落としになるのをただ見守っていればいい。卒業時に一括で返済してしまう手もあるけどせっかく無利子で借りてるんだから万一の場合に備えて持ってた方が有利だろう。誰かが病気になるかも知れないし塾だってどうなるかわからないんだから。
 という思わぬ僥倖に奨学金の悪口はもう言うまいと一瞬だけ思ったんだけどやはりまだ腹に据えかねることがある。それはもっと早い段階で給付を始めないと受給者は結局いろいろ持ち出しで払わなければならないということだ。今回だって前期の学費を払うために生命保険を一部解約したしそれは背に腹は替えられない手段だったとはいえ保険金の額が減るなど結構なダメージをもたらした。もしも前期の学費を払う前に奨学金の給付が始まり合わせて入学金と学費の減免がなされていたら生命保険には手をつけずに済んでいたかも知れない。そこはやはり現状に即してない点だしそのスピードはやってやれないことじゃないんじゃないかと思う。
 ところでこの56万円で気分が十何年ぶりに明るくなったことは確かだ。前の会社は辞める数年前から賞与を出す余裕がなくなっていたしもともと薄給なので賞与がなければ大した額ではない貯金を切り崩して生活して行くより他なかった。家人が外に出て働くタイプでないことはわかっていたしそういう形で家人に負担をかけることだけは避けたかった。子供に特にお金がかかる訳ではなかったけどでも一人育てるというのはやはりそれなりに大変なことだ。だから最後の数年は本当にお金の心配ばかりしながら会社勤めをしていた。そして貯金が尽きかけたところで会社を辞めた。そのとき退職金をもらったけど職はないしその退職金だけで暮らして行くのはどう切り詰めても一年くらいのように思われた。塾を始めてからもお金の心配をしなかった日なんてない。つまりここ十何年かずーっとお金のことばかり考えて暮らして来たと言える。それが生徒さんも急に増加傾向だし奨学金も入り始めたし学費は減免だし急にまとまった額が振り込まれたしでなんかすっかり心配事が霧消した感じだ。今年は父親が亡くなった以外はいいことが続く。子供だってまじめに大学に通っている。父親が後押ししてくれてるのかも知れないと思う。それとお稲荷様が。