指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

誰もがアンに優しい。

 二枚組で合わせて二時間以上にわたって計120曲近くを収録。挿入歌はおそらく全部網羅してる他BGMももしかしたら全部収録されてるかも知れない上にアン(山田栄子さん)とダイアナ(高島雅羅さん)が歌うアコースティック・ギター一本が伴奏の「はしばみ谷のネリー」まで入ってる凝りよう。うれしいを通り越してその丹念さに感嘆する。一枚目の始まりはオープニングテーマの「きこえるかしら」のフルバージョンから「あしたはどんな日」、「森のとびらをあけて」、「涙がこぼれても」、「花と花とは」(残念ながらこの曲だけ聴き覚えがなかった。)、「忘れないで」、「ちょうちょみたいに」、それにエンディングの「さめない夢」と主題歌と挿入歌のコレクションで聴いてるうちに思わず涙がこぼれる。厚みのあるオーケストラの演奏で歌詞はどれひとつとってもアンに優しい。そのみずみずしい感受性としなやかな想像力、生き生きとした言葉遣いを大切に守り少しも傷つけないよう慎重に言葉を選んで書かれた歌詞たちだ。そうなんだよなと思う。アンはいつまでもどこまでもそのままの姿でいられるように守ってあげたくなるような曇りのない心を持った女の子だ。曲をつくった人たちと自分との間でそんな思いを共有できたと思うとなんだかじーんとしてしまう。時を超えて我々は同じものを見ている。その共感の強さに胸が震える。
 もしかしたらファンの多くがそうなんじゃないかと思うんだけど「赤毛のアン」の舞台であるカナダのプリンス・エドワード島というところを一種の理想郷のように個人的には思いなしている。その魅力は季節の移り変わりの美しさと空の広さ、様々な植物たちの生命力などだ。そのイメージはこのTVシリーズによって植え付けられたものに違いない。けどそれはまた幾分かはアン自身の視線がもたらしたものなのかも知れない。考えてみるとアンは植物には深い興味と共感を示すが動物にはあまりそういうことをしない。その彼女特有の風景の切り取り方が実際のプリンス・エドワード島の姿に一定のバイアスをかけアニメに現れる風景となってるのかも知れない。でももちろんそれで構わない。そのプリンス・エドワード島は僕らのイメージの中でだけぼっかり大西洋上に浮かんだ架空の島だ。だから実際のその島を訪れてはならない。がっかりするに決まってるからだ。このBGMの数々を聴いているとそんな気がして来る。それほどきっちり自己完結したひとつの世界をこの作品は見せてくれていたのだ。