指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

リハビリ。

 そろそろ本を読まなきゃと漠然と思ったんだけどどんなジャンルにせよいきなり本格的なものだと途中で挫折しそうなくらい長い間読書と離れていた気がしたのでリハビリと思ってこの前の「ダンとアンヌとウルトラセブン」を読んだらさすがに抵抗なく読めた。同じ日に図書館で借りたのが山本義隆さんのこの本。山本さんは駿台予備学校の物理の講師をされていて親友のSSが予備校当時(もしかしたら今も?)私淑していたので知っている。僕自身は文系だったので講義を受けたことはない。ただ当時話題となっていた新潮社の「フォーカス」という写真誌に取り上げられたことがありそれは読んだ。東大全共闘議長だった経歴を持たれている。ミーハーだけどそれだけでなんだかかっこよく思える。現在は科学史家という肩書きもおありだ。
 リニア中央新幹線という巨大プロジェクトがいかに時代に逆行した愚かなものであるかということが一応のテーマだ。建築にかかる費用、環境破壊、走らせるために必要な莫大なエネルギーの調達、そして不安な安全性。どの観点からしてもこのプロジェクトが現在も破棄されていないことがにわかに信じがたい。もちろんそれにはそれなりのからくりがある。そしてそれは原発推進に向けられた国の政策の矮小なカリカチュアでもある。古くは文明開化以降のそして戦後復興からのわが国の民意を無視した政官そして大企業の利益追求並びに国威発揚への欲望が原発推進のまたリニア開発の背景になっている。最終章で描かれるこの指摘の方がより本質的でショッキングなように思われる。福島の原発事故やコロナ禍を経験しながら日本は何十年も昔の思想に依拠したまま今も尚突き進もうとしている。でもそれは資本主義の原理から言っても不可能だし間違いだ。ではそれに対する処方箋とは?リニア中央新幹線原発事故とコロナ禍という一見つながりを持たない三者が日本の政策という観点からすると同一の線上にある問題として浮かび上がる。読んでいておもしろいけど考えると恐い。山本さんのご著書はおもしろそうなものが多いのでまとめて読むのもいいかなと思っている。また個人的にはこれでみそぎは終えたことにして次の本に進みたい。随分前に買ったあの本だ。