指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

とにかく読み終えた。

 読むのは速くなくて普通の単行本で小説の場合一時間に40ページくらい。これは年齢に関係なく若い頃から大体同じだ。難しい本になると当然スピードが落ちる。この本の場合は一時間に20ページ行ければいい方だったんじゃないかと思う。それでも科学史というのはほぼ未知の分野で興味があったし読み始めればおもしろいのでそれを動力にしてしずしずと読み進めて行った。余談だけどこの本も店頭に並んだ当時手に取ってみようかなあと思った記憶がある。そして難しそうだと思い込んで手を出さなかった。今読もうと思ったのは山本さんの本を二冊曲がりなりにも最後まで読み通せたからということが大きい。この本の場合一割くらいまったくわからなかったところがあった他は大体理解できたと思う。
 磁力は主にヨーロッパにおいてどのように解釈されて行ったかということがテーマだ。考えてみれば僕の知識では磁力の正体なんて全然わからないからお話としては大変興味深い。時代は紀元前のプラトンから13世紀のロジャー・ベーコントマス・アクィナス、ペトロス・ペリグリヌスまで。それ以降の時代は二巻目三巻目で論じられるだろう。話題は磁力に留まらず広く自然をどう解釈するかという自然哲学史の相貌を帯びる。特にアリストテレスの哲学が古代ギリシャの終焉を経てローマ時代に入るとヨーロッパではほぼ完全に見失われむしろイスラム圏がそれを保存し研究を続けていたという流れには驚かされる。(世界史としてはごく当たり前の知見だったらごめんなさい。)後に中世のヨーロッパはイスラム圏との交流を通してそれが知的にも経済的にもはるかにヨーロッパをしのいでいる事実に驚きまたそこでアリストテレスを再発見するに至る。その著作のほとんどがラテン語に訳され中世ヨーロッパの知識人たちに多大なる影響を及ぼす。しかし中世の神学は自然の中に神の意志を見いだすことを目的にしていてアリストテレスの自然学の合理性とは相容れない。それをトマス・アクィナスが「力業」で統合したと言うんだけどその構図はよくわかるもののアクィナスが通った理路が読んでも全然わかんなかった。術語の定義が曖昧なままに読み進めたからだと思う。でもその何十ページ以外はなんとか着いて行くことができたみたいだ。いちばん驚かされるのは中世ヨーロッパにおけるアリストテレス自然学の影響の大きさだ。個人的にはアリストテレスなんて読んだこともないし読んでも多分理解できないだろう。そればかりでなく筆者の書物の渉猟ぶりにも舌を巻く。二巻目もしずしずと読んで行くことになる。