指栞(ゆびしおり)

すまじきものは宮仕え。

買わなくてもよかったんだけど買ってよかった。

 このブログで確認すると村上柴田翻訳堂をまとめて読んだのは2018年の夏前のことらしい。「本当の翻訳の話をしよう」の単行本が出たのが2019年の9月ということでこれは出たときすぐに買って読んだ。そのとき感想にこの本の対談のいくつかはすでに読んだことがあったという趣旨のことを書いている。でも今回増補版を読んで気づいたのは村上柴田翻訳堂の後書きと言うか解説と言うかのかわりにそれぞれの作品の最後に収録されたおふたりの対談がこの本には八本も載ってるということだ。つまりその八本はすでに読んだことがある訳だ。さらに「帰れ、あの翻訳」はMONKEY誌を買って読んでおり「小説に大事なのは礼儀正しさ」はジョン・チーヴァーを村上さんが訳された「巨大なラジオ/泳ぐ人」に収録されているとありこの本も買って読んでいる。さらにさらに「切腹からメルトダウンまで」という村上さんの文章はジェイ・ルービン(村上さんの作品の英訳をしている翻訳者)が編んだ「ペンギン・ブックスが選んだ日本の名短篇29」に解説として掲載されておりこれはこの村上さんの解説読みたさにウェブ版のブック・オフで買って読んでいた。ということで増補版と言っても初めて読んだものはほんの少しだったという次第。でもまあ読んで本当におもしろい本なので買わなくてもよかったと思いながらも買ってよかったことにしておく。今回すごくしみたのが以下の一節。

(前略)小説というのは耳で書くんですよ。目で書いちゃいけないんです。といって書いたあとに音読してチェックするということではなくて、黙読しながら耳で立ち上げていくんです。そしてどれだけヴォイスが立ち上がってくるかということを確認する。(後略)「ラードナーの声を聴け」より村上さんの発言。「本当の翻訳の話をしよう」所収。

 最近になって文章から聞こえて来る声ということをよく考えるのでこの箇所に共感したんだと思う。一度このブログを評して「声がいい」という感想をいただいたことがあってうれしかったので今でもよく覚えている。自分自身このブログの記事を書きながらすごく落ち着いた声で語ってるなと思うことがある。ほんとはそれほど落ち着いた人間じゃないんだけど。