指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

ゆっくり歩く。―村上春樹ライブラリー十四回目。

 また原因不明の膝の痛みで朝六時に家人を起こして湿布を貼る。じっとしていても痛くて眠れないほど。でも八時過ぎに起きたときには少しよくなっている。三時十五分から村上春樹ライブラリーを予約していて行けるかどうか危ぶまれる。でも結局行くことにする。前回読み始めた吉元由美さんの「するめ映画館」の和田誠さんと村上さんとの鼎談をひとつ読む。そしてそれだけで帰る。暮れて行くキャンパスをゆっくり歩くとみんなどこで何をしてるんだろうという気がしてくる。同じ語学クラスの少なくともひとりは数年前に亡くなった。ひとりはこの前も書いたように京大の法科大学院に来春から所属することになってる。大阪府庁の職員だったり結構大きな企業に勤めていたりフリーでがんばっていたり何人かの消息は知ってる。でもその他のほとんどのクラスメイトは僕にとっては行方不明だ。仲のよいクラスで随分コンパなんかもやったし旅行なんかにも行ったりしたもんだけど。そして今はおそらく自分だけが毎週のように母校に通う暮らしをしている。自分だけがどこへもスタートを切れないままキャンパスに残っている気もする。でももちろんそれはただの錯覚でずっとキャンパスにいた訳じゃなく曲がりなりにも社会に出たし結婚もしたし子供も成人させた。そうして大きな円周を描いてまたここに戻って来たということだ。とてつもなく成績が悪くて命からがら卒業したのでどんな形でも大学に残るという選択肢はなかった。それに吉本隆明さんにも影響を受けていたので象牙の塔に籠もるのではなく一般の社会に出なくてはならないと考えていた。でももし村上春樹ライブラリーが開設されると三十何年前に知ってたら文学部に学部入学して大学に残ることを志望するという可能性もあったかもと思う。まあそんな仮定にはなんの意味もないな。というようなことを考えながら歩く。
 神田沙也加さんの訃報には心から驚かされた。特にファンという訳ではなかったにせよ。遠くから見るとあまり幸せな育ち方をなさったのではないように感じられるけどそれもまた推測でしかない。ご冥福をお祈りいたします。