指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

ちょっとだけ上がるできごと。

 大晦日の混み合ったスーパーマーケットで不意に声をかけられた。―くんのお父さんですか。子供の名前だった。あわてて目を向けるとまったく見覚えのないおばさんが立っている。そうですがと答えると―小で―くんと同級生だった―の母ですと自己紹介される。お子さんの名前にはかろうじて聞き覚えがあった。家人はお母さんの顔を覚えていたみたいでその後の会話は家人が引き取ってくれた。お母さんのうしろに立ってたのが当の同級生の女の子だった。小学生のときの面影は感じられずきちんとお化粧をしてすごく大人びて見えた。そしてとてもきれいな目元だった。考えてみればそりゃ二十歳のお嬢さんなんだからこんな風にきれいに見えても全然不思議じゃない。ただうちの子と比べてあまりにも大人びて見えたのでびっくりした訳だ。お母さんはうちの子を全然見かけないけど地方の大学に行ったのかとか成人式には出るのかとか家人に尋ねていた。僕にはもうひとつ驚くことがあってそれはまったく見覚えのないお母さんが僕のことを覚えていたということだった。しかもマスク越しにそれと気づくなんて。スーパーからの帰り道でそのことを家人に言うとあなたほど学校行事に来てたお父さんは珍しかったからじゃないのと言う。なるほど。でも理由はどうあれ自分の全然知らないところに自分を覚えてくれている人がいるというのはなんかちょっとこうこそばゆいような感覚だった。そしてそれはなかなか悪くない感じで気分が上がった。
 昨日年末の挨拶代わりに生徒さんの保護者に向けて一年間のお礼のメールを一斉送信で送った。すると何人かから丁寧な返信があって塾に行き始めてから勉強に自信が持てたとかそちらの指導のおかげでいい方向に向かっているとかうれしい言葉が届いた。こんなことも気分を上げてくれる。
 元日なので初詣に行き例によって去年の破魔矢をお納めしてお参りした後新しい破魔矢をいただいておみくじを引いた。吉。目の前の小さな利益を追うのではなく大局でものを見るのがよい。運気は次第に上がって行くだろうという意味のことが書いてあった。なんかすごいタイムリーな言葉に思えて少し気分が上がった。
 ということで今年も相変わらずこんな感じですが何卒よろしくお願い申し上げます。また昨年父親を亡くしましたので新年のご挨拶は謹んでご遠慮させていただきます。