指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

ちょっとうれしかったこと。

 バイトで今日も二時間半違う部署の仕事をした。その場合いつもより三十分遅い出勤となる。でも余裕を持って定時より二十分早い時間に職場に着くようにしている。この部署の仕事はまったくの一人仕事なのでそれなりに準備とそう言ってよければ心構えが必要だからだ。すると今日は本業の方にシフトが入ってるひろたんがやって来て仕事が始まる前の十五分ほど話をした。たぶん僕と話すためにわざわざこちらの部署にやって来てくれた訳でこれはちょっとうれしかった。話題はこの前の彼女の最終面接のことであまりうまく行ったと思ってない理由をちょっと具体的に話してくれた。でもそれほど致命的な問題とも思われなかったので自分の経験を話して聞かせた。その会社の最終面接を受けたときあまりにも手応えがなくてこりゃ絶対落ちたと思った。でも受かってた。面接の手応えと合否なんて実は全然関係ないかも知れませんよ。その会社の名前よかったら教えてもらっていいですかと彼女が訊くので教えると彼女はかなり驚いた。どうして行かなかったんですかと言うので前にも話したかも知れませんけど卒業できなかったんですと答える。すごく残念だったんじゃないですかと言うのででも全部自分の責任なので自分ひとりできちんと諦めるしかなかったんですと返した。この子はとてもいい子なんだけど自分の経験不足を過度に恐れてる傾向がある。だから人生の振り幅というのは君が思ってるよりよほど大きいんだよという趣旨で話をすることがある。もっとタフじゃなきゃこの社会じゃやって行けないかも知れないよと。伝わってるかどうかはわからないけどでも僕の考えではそういう経験談が彼女にとって今いちばん必要なんじゃないかという気がする。もちろんほんとはそれを自ら体験するのがいちばんいい。でもそんなの体験したらこの子は一発退場しちゃいかねない。そうならないように少しずつ免疫をつけて行って欲しい。と言うとき僕はほんとに彼女のためを思ってるんじゃないかという気がする。まあ要するに余計なお世話な訳だけど。