指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

高木さんの「Fragile」。続き。

 ELT持田香織さんと高木さんの圧倒的な差は声量だと思う。持田さんはプロの歌い手として恥ずかしくないだけの豊かな声量ともうひとつ詳しくはわからないけどビブラートとかいったような優れた技術を兼ね備えている。ELTの「Fragile」はその歌唱力を前提にして成り立っているしそれなしには成り立たない。個人的にはもちろんELTの「Fragile」もすばらしい曲だと思う。これに対して高木さんの歌唱はほとんど技巧を凝らしてない。ちょっとかわいい声を持つ普通の女の子が歌うような素直でまっすぐな歌唱に聞こえる。それがこの曲をより身近な場所まで運んで来ている。夏の夕暮れ同じひとつのベンチの隣に座った女の子が口ずさむ歌に耳を傾けてるような。でもそれ以上に重要なのはどう書いても否定的な言い方になってしまうけど肯定的な意味での声量の弱さじゃないかと思う。それがこの曲の歌詞の今まで気づかなかった解釈を可能にしている。好きなのに傷つけ合ってしまうということの哀しみがこの、言ってしまえば弱々しい素朴な歌唱に乗せられることでより切実で現実味を帯びた響きを持ち始める。この歌詞はほんとはこんなに哀しい歌詞だったのかということにもう一段深いところで改めて気づかされる気がする。個人的に高木さんバージョンのいちばんの魅力はそこに感じ取ることができる。そして自然に涙を流させる。
 同じアルバムに収録された「ひまわりの約束」でも泣いたんだけど理由は上記と変わらない。オリジナルのこの曲ももちろんいいと思うけど高木さんのボーカルによって新たな側面が切り開かれてるように感じられる。それは言葉の切実さということに尽きる。あまり豊かな声量では気づくことのできない切実さだ。それが本当に強く胸に迫って来る。
 高木さんの「Cover Song Collection」はこれで三作目でたぶん最後なんじゃないかと思う。二作目も随分よく聴いた。それで一作目を買おうかどうしようか迷ってたんだけど三作目で高木さんのボーカルのよさが自分なりにわかったのでやっぱり買うことにしようと思っている。八月のバイトも夏期講習で時短された割には現時点で七万円以上積んでるし。