指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

やだよそんなの。

 前にもちょっと書いた通り今月新しい生徒さんが塾に入った。通常の授業の他に補習もして欲しいと電話で言われてそれはOKということにしたら水曜日は通常の時間より小一時間早く来たいと言う。そのときは何も考えずに了承したんだけどそれで午前中フルにバイトを入れると時間が無くてお昼に一杯やることも昼寝することもできなくなる。確かにバイトよりも本業を優先するのが鉄則ではある。でも昼の一杯と昼寝は本当に数少ない僕の楽しみでこれを週に一度でも失うとなると精神的なダメージがものすごく大きいことに気づいた。誰にだってわずかな気休めというのは必要だ。それでも今日はバイト先に無理言って―と言ってもシフト係のしーちゃんは僕にものすごく優しいので二つ返事でOKしてくれたんだけど―一時間早く上がらせてもらった。それでいつものルーティンをこなした上で小一時間早く塾に行った。生徒さんにお母さんも着いて来ていて水曜日はその時間から通常の授業時間より三十分遅くまで来たいと言う。また週にもう一日は早くは来ないけどやはり三十分遅くまでいたいという希望だった。普通の生徒さんより週に二時間長く授業を受けてそれで月謝は同じということだ。やだよそんなの。ただこの図々しさが逆に背中を押してくれてこの他にも仕事をしていて今日はそちらの時間を削って早めに来てもらえたけど基本早めに来るのはお断りしたいと申し訳なさを一切感じずに言うことができた。すると今日の件については相手も恐縮しそれでは三十分長くだけお願いしたいと言うのでそれは承諾した。まあとても素直な女の子だし授業自体はやりやすいのでそれくらいなら我慢できそうだ。明日はバイトが休みなのでこの生徒さんの補習用の教材を買って来なければならない。
 それと最近思うことの一つに本当に不思議なんだけど誰か生徒さんが辞めるとほどなく別の生徒さんが入って来ることになってるんじゃないかというのがある。もちろんそんなことが起こる根拠は示せないんだけどなんとなくそんな感じになってる気がする。願わくばこれが誰も辞めなくても誰かが入って来るサイクルになってもう少し楽に暮らせますように。