指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

皮算用とか。

 今のバイトで月にいちばん稼いだのはとにかく長時間バイトに入って最高どれくらいの収入になるか試してみようと思った今年の五月で130時間ちょっと働いて14万円弱の稼ぎになった。源泉徴収されて手取りは13万ちょっと。時給が上がった今月は今日までに124時間働いて稼ぎが13万5千円ほど。源泉徴収されると手取りは13万円を少し割ることになると思う。目に見えてというほど大げさじゃないけどまあ少しだけ効率がよくなった気がする。もっともそれで生活が楽になったかと言えば少しもそんなことなくて折りからの物価高騰で余裕なんてまったくない。もっと時給の高いバイトを探す手もある。でも今のバイト先は何しろ家から近いので通勤によるタイムロスがほぼゼロに近い。仕事にも慣れてきた。出勤の頻度が高いので先輩のバイトからもその日の細かい段取りについて質問されるようになった。また仕事中に先輩の間違いをフォローしたりもできるようになった。午後はたまにしかシフトに入らないのでもっとよくわかってるスタッフがいると思うけど午前中に関しては自分がいちばん頼りになるんじゃないかという気がする。イレギュラーなスケジュールにもほぼ完全に対応できている。ただ会社がなんて言うか体育会系のノリなので社員の中には訳もわからずあまり親しくなれない人もいる。いちばん打ち解けている社員さんはシフト担当のしーちゃんで最近はラインで仕事上の悩みを相談されたりもしている。何しろ親切にしてくれるので僕としてもできるだけ親身になってアドバイスめいたものをすることもある。10月初めにバイトの人員整理のようなものがあり、と言っても一方的に解雇されるとかそういうのではなく幽霊部員みたいに籍だけ置いてるけどシフトには入らないバイトに対し辞めてはどうかと持ちかけられるということがあった。その際何人かが辞めた中にすごくきちんと仕事をしてくれる女子学生でかなり偏差値の高い大学に通ってる子がいた。シャイで無口なんだけどたまに一緒のシフトになるとぽつりぽつり話をしたりして教育系の学部に通ってるんだけど塾でバイトをしてみて自分が教師には向かないことがわかった、人前で話をするのが苦手だからだみたいなことを話してくれるまでになりこちらとしては随分親しくなったつもりだったけど一身上の都合ということであっさり辞めてしまった。正直ちょっと寂しかった。それからこちらもものすごくきちんと仕事をする男子学生で最近時給のいい飲食のバイトの掛け持ちを始めたと言ってた子も時を同じくして辞めてしまった。辞めるときの連絡で今の学生バイトは質が悪いので再教育した方がいいと思うと言ったそうでしーちゃんは腹を立ててたそうだけどそういうことを言うだけの権利が彼にはあると判断せざるを得ないほど仕事はきっちりやってて個人的には最大級に評価していた。彼が辞めてしまったのも寂しい。それと女子学生さんの中ではいちばん話が合うひろたんも十月の件では辞めなかったものの今月のシフトは一日しか入っておらずそれも午後だったので一緒にはならなかった。十一月もシフトにはほとんど入ってないらしい。来年は就職なので遠からず彼女もいなくなってしまうだろう。もしかしたらもう会うことはないのかも知れない。と思うとこちらもかなり寂しい。老人というのは寂しがり屋だと母校東工大の先生について吉本隆明さんが書いていたのを読んだことがある。僕も老人の域にずっぽり片足取られてるのかも知れない。両足?