指栞(ゆびしおり)

すまじきものは宮仕え。

あまり来ない。

 冬期講習の募集を締め切ったところあまり生徒さんが来ないことがわかった。十万円くらいの皮算用に対しその半分にもならない。もっとも十万円というのは勘違いで冬期講習ではなくもっとずっと長い夏期講習での収入だった。前回の実績を調べてみても冬期講習は数万円にしかなってない。まあそんなもんか。朝はかなり早い時間帯から授業を始めてその後二時間ちょっとバイトに入る。明日は冬期講習の初日だけどたまたま生徒さんがひとりも来ないのでお昼近くまで予定がない。時間がもったいないのでバイトに入ろうかと思ったらシフトがいっぱいで入れない。だから少し歩いて生徒さんたちにあげるキャンディーでも買いに行こうかと考えている。近くのコンビニだと高くつくから。来週の月曜日も朝生徒さんが来ない。でもこの日はバイトに欠員があったのでシフト係のしーちゃんに連絡したらふたつ返事でシフトに入れてくれた。しかも別部署での仕事を割り当ててくれてこの人はほんとに優しい。少しだけ楽できる。
 バイトに中国人の女の子が入って元々は別の部署なんだけどよくこちらに手伝いに来てくれる。ほんのちょっと発音に慣れないところが感じられる他はほぼ完璧な日本語を話すし文章も読める。この子がどういう訳か僕になんとなくなつくと言うかそんな感じで仕事なんかも細かく僕のやり方を見ていて真似するし仕事以外のこともいろいろ話したりする。まだ二、三回しか一緒に仕事したことがないんだけど。この前一緒になったときは他にベテランのまーさんとうっちゃんがいて仕事終わりにこちらに寄って来てあのふたりは恐いとこっそり言う。僕自身はおそらくふたりに気に入られてるので別に恐いとか思ったことはない。でもそう言われてみるとふたりとも割にずばずばものを言うし好き嫌いがはっきりしてるしやや厳しい印象ができてしまうかも知れない。それよりそんなことを打ち明けてもらえるのはなんか信頼されてるからのようにも思えるしまたふたりに比べれば僕は恐くないと思ってるようにも取れるしどちらにしてもなんだかこそばゆい。もうひとつこの子にはちょっと変わったところがあってそれは普通の人よりもう半歩くらいこちらに近寄って立つということでそうされるとなんかすごい親密な空気が生まれる。寄り添う恋人同士みたいな。いや、だからと言ってそれ以上何かが起こる訳じゃないんだけど。