照明を点けなくてもいい時間帯ならいつ泳いでも構わないと昨日言われたんだけどお客さんが入ってない開館前の方が問題になる可能性が低いだろうと思って早起きして泳ぎに行く。僕らスタッフが施設を利用するのをあまり快く思わないお客さんというのもいる上無料で使ってるということがばれるとクレームをつけられることもあるらしい。スタッフは施設を無料で利用できるというのは言わば福利厚生の一部として契約書にうたわれている。それでもできれば痛くもない腹を探られたくはないんだろう社員さんからは客に聞かれてもそのことは伏せておくように言われてるし僕らもそこは気を遣うようにしている。という訳で施設の開館時刻までには体を拭き終え着替えを済ませてスタッフの専用口から外に出られるよう時間に余裕を持って出かける。先週の火曜日以来だからほぼ一週間ぶりのスイム。水が冷たいと聞いてたのでいつもよりやや入念に準備運動をしてプールに入る。足を漬けると確かにいつもよりひんやりする。でも冷たくて入ってられないという程でもない。水底に足の裏をつけゆっくりと肩まで浸かりそれからゴーグルをつけて頭のてっぺんまで水に沈める。水は今まで見たこともないくらいきれいだ。青く澄んでいる。普段水が澄む作用のある薬品を定期的に入れてるんだけど薬品の力で澄ませたよりもさらにきれいに見える。水を入れ替えたばかりなので当たり前かも知れない。その高い透明度が思いがけず僕を感動させる。やっとここに帰ってきたと思う。やっとここに帰って来ることができた。水はどこまでも見通せるほど青く澄んでいて冷たくてそして今この広い二十五メートルプールにいるのは自分ひとりきりだ。他に誰もいない。帰ってきたひとりぼっちの野良スイマー。孤高であることの開放感と不思議な優越感のようなもの。確かにここにこうしていられることは僕に許されたささやかな特権だ。でも時間はあまりない。アップルウォッチのプールスイミングをオンにしておもむろに泳ぎ始める。向こうから泳いでくるスイマーがいないとはどれほど気が楽なことか。水底を見つめたまま前方のことは一切気にせず泳ぐことができる。残り五メートルを知らせる赤いラインを通り過ぎるとやがて視界に壁の姿が映り始める。壁に手が届くところまで来ると指先をプールサイドに引っかけて体を引き寄せ足の平で壁を蹴ってターンする。ただその繰り返し。ペースは悪くないように思われる。でも呼吸は特に苦しくない。ただ無心に泳ぐ。泳いだ距離だけ数え間違えないように気をつけながらひたすら泳ぐ。やがて千メートルがやって来る。壁に手をつく。水底に足をつく。アップルウォッチのカウントを止める。23分59秒。まだまだだけど最悪ではない。その後軽いめまいに襲われる。泳ぐことを始めた頃泳ぎ終えるとたまにめまいがした。今回はインターバルが長すぎたんだろう。体が慣れれば大丈夫。シャワーが出るかわからなかったけどカランを回すと勢いよく吹き出てすぐに温度も上がる。ひとりきりのプールサイドに立ちセームタオルで丁寧に全身を拭く。水着も履いたままで拭いてその上からハーフパンツを履く。Tシャツを着てバイト用のパーカに腕を通す。事務所をちらっとのぞいたけど朝の忙しい時間帯社員さんは出払ってるみたいだったので誰にも挨拶せずにそのまま専用口から抜け出す。施設のオープン時刻までにはまだ十五分以上ある。明日もきっとこんな調子で泳げるだろう。いや明日からもずっと。彷徨は終わった。
帰宅後シャワーを浴びて朝食を済ませ家人と出かける。無印良品週間なので歩いて行ける最寄りの(と言ってもなかなか遠いんだけど)お店まで。家人にしては結構なまとめ買い。帰りにいつものお弁当屋さんといつものスーパーに寄って帰る。今日は野球がないのでなんだか寂しい。