指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

明日は勤務が削られる予定だった。

 明日は勤務が削られる予定だった。今日も希望よりも二時間半削られた。昨日も削られている。人員過多ということだ。まあ僕の場合は一ヶ月の勤務時間が結構長いので多少削ってもいいだろうということなんだと思う。稼ぎが少なくなるのは困ると言えば困る。でも会社側の事情を考えたら仕方ない面もあるかも知れない。と思ってあまり気にしないようにしてる。ところが今朝バイト仲間のうっちゃんからラインが来てお子さんが熱が出たので明日の勤務を変わって欲しいということだった。それじゃ気の毒なので少しでも早く気を楽にさせてあげようと思ってすぐに返信して引き受ける旨伝えた。いつも申し訳ないとの返信が来た。僕にしてみれば稼ぎも増えるし申し訳ないのはかえってこっちの方という思いだった。その話を家人にするとそれはちょっと筋が違うんじゃないのと言う。旦那さんが休みを取ってお子さんの面倒を見るべきだということだった。なんでも共働きの家庭では子供に何かあると必ず奥さんの方にしわ寄せが来るのでそれが結構な問題になってるんだそうだ。しかも勤務を代わって欲しいと頼む相手として絶対に断らない人を選んでるところも気に入らないらしかった。家人はSNSをよく利用してて特に男女の不平等と思われる問題には日頃から割に敏感だ。その手の話を毎日のようにしている。もちろん彼女の話には僕も大筋では賛成だ。ただ時々だけどそれはちょっと一方的に過ぎるんじゃないのと思わないでもないことがある。もうちょっと柔軟に考えることもできるような気がすることがある。そういう意見をたまに口にしてみてもいる。でもあまり真剣に取り合ってはもらってないようだ。その証拠に彼女の論旨はいっかな変化しない。今回のうっちゃんの件をそういう論旨の中で理解したいという思いもわからないではない。でも僕としてはうっちゃんの助けになりたかったのと少しでも自分の稼ぎを増やしたかったのとのふたつの思いしかなかったし家人に詰め寄られるほど悪いことをしたとは全然思えなかった。だから黙っていた。それと家人がそう言うのには彼女が無意識に前提にしてるふたつのことが背景にあるんじゃないかと思われた。ひとつは彼女がバイト先の人を誰によらずあまりよく思ってないらしいということだ。それはまあさんやうっちゃんも例外ではない。理由はよくわからない。ただ家人の彼らに対する人物像は僕の話からつくり上げられたものなので僕の話し方にどこか悪いところがあるのかも知れない。もうひとつは結婚二十五年を過ぎた今でも家人が僕の休みを心待ちにしてるらしいということだ。僕も休みの日に家人と出かけるのをいちばんの楽しみにしてるけど家人も僕がうちにいるだけでなんだかうれしいらしい。その数少ない休みが奪われると聞いてがっかりすると共に奪ったものとしてうっちゃんを非難せずにいられなかったような気がする。それが家人が突然詰め寄ってきた無意識の理由のように思われる。ちなみに休みが多いということはそれだけ収入が減るということで僕にとっては不安材料でしかない。でも家人はこの収入が減るというところをあまり考えに入れてないみたいだ。彼女にとって僕の休みイコール手放しでいいことと見なされてるような気がする。まあそれはそれで僕としてはちょっとこそばゆくもあるんだけど。という訳なのでたとえばバイト仲間の女子学生サコちゃんが二回にわたって計四時間うちの塾に話しに来たというようなことは家人には黙ってる。隠し事をしてると言うよりも君子危うきに近寄らずという言い方の方が僕の実感に近い。