指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

デタさんのご勇退。

 バイト最年長のデタさんが定年のために今日付でご勇退ということになった。夜の勤務に入ってることをシフト表で確認し僕はシフトに入ってなかったので午前中春期講習が終わったあと家人と合流して前にもバイトを辞める先輩にブーケを贈ったときに利用したちょっと離れた花屋さんまで出かけた。でも思い描いてるようなブーケは売ってなくて大体午前中に買ったブーケがデタさんが帰宅する深夜まで保つかどうかもわからなかったのでいったん買うのを諦めていつものお弁当屋さんとスーパーに寄って帰ってきた。夜の授業は本当に久しぶりにお休みにすることになってたので電車に乗って隣の駅まで行き花屋さんを二軒はしごして探してみるとお花は今本当に高くて手が出なさそうなものしか見当たらない。それなら午前中行ったお店の方がまだお手頃だった気がしてまた電車に乗って再びそのお店へ。そこでまあまあお手頃なブーケを見つけてお店の人にどれくらい持ち運べるか尋ねると二十四時間は大丈夫と言う。だったら午前中に買っとくんだったなぜそれを午前中に尋ねなかったんだろうと後悔しきりでとりあえずそれを買ってまた三十分ちょっとかけて歩いて帰宅した。今日は駅前にいつものラーメンを食べに行く約束だったので家人と子供と一緒に出かけ帰るさにサーティーワンでアイスを食べる。それからデタさんにお花を渡すタイミングをうかがいに行くと最後の勤務だと言うのにふたり態勢だということがわかった。少し迷ったけど帰宅して着替えて最後の一時間半だけシフトに入ることにする。考えてみればデタさんと一緒のシフトも今日が最後だしこれを逃す手はないという気がしたからだ。急遽入って下さったんですかと言うデタさんにそうですと答えてローテに入る。デタさんの最後の監視台にバトンタッチしたのも僕ならデタさん最後のコースロープ移動の相方を務めたのも僕だった。プールの監視員にしかわかってもらえないかも知れないけどそれって結構光栄なことだ。すべての仕事が終わってからロッカーに置いてあったブーケを取り出してたまたまふたりきりの監視室で長い間お疲れ様でしたと言って渡すことができた。個人的に苦手な女の子の「んぶちゃん」とかが勤務でもないのに顔を見せてたので何しに来たのと尋ねるとみんなで最後にデタさんを見送りに来たと言う。お前らはなんでもかんでも寄ってたかってそうやってお祭り騒ぎにしないと気が済まないんだなと苦々しく思いながらデタさんに最後の挨拶を済ますときびすを返して帰途についた。そう言えばグレートマザーまーさんも先ほどデタさんに挨拶して何かを手渡しさっと帰って行ってた。単独であること。手短であること。それが大人の見送り方だよ。もっとも君たちには大人になっても決して身につかないやり方かも知れないけどね。でもまあ今日はその辺でやめとこう。また泳ぎに来ますからとデタさんは言った。また泳ぎに来るデタさんは今日のデタさんとは別人に過ぎないんだけどそれでも楽しみに待っていようと思う。