指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

気遣われる。

 五月三日のエントリに書いた大阪出身の女の子に名前をつけておこう。リタちゃんでいいかな。それから彼女と同じ大学の大学院に通う司法試験組の男の子にも名前をつけておく。ツっくんにしよう。今日のバイトはそのふたりと一緒だった。リタちゃんは前にも書いたように学生さんにしては珍しいほどちゃんとした気遣いのできる子だしツっくんは見た目は今風だけど根はものすごくまじめでどちらも一緒にシフトに入るととても気持ちよく仕事ができる。だから日頃から彼らのことは信頼してるし彼らと一緒のシフトのときは気分が軽い。ところで昨夜のバイトが終わったあたりから古傷の右膝が痛み出した。台風が接近してるし気圧とかそういうのが原因なのかも知れないし気づかないうちにひねったりぶつけたりしたのかも知れなかった。朝になるとベッドから出るのが若干つらいくらい痛みが悪化してたけど歩けば歩けそうなのでバイトには行った。でもリタちゃんにそういう訳で水中点検はしないで帰りたい旨伝えると大丈夫ですかめっちゃ痛みますかと問う。ちょっと痛いけど仕事はちゃんとやるからさと答えると無理しないで下さいねと言う。仕事が始まってしばらく経ってスイミングレッスンが始まるのでもうちょっとしたらコースロープを移動しなければならないというときに監視台の上のリタちゃんがガラス張りの監視室の中にいるツっくんを呼び寄せるのが見えた。監視台のスタッフがわざわざ監視室にいるスタッフを呼び寄せる必要なんて普通はないのでなんの話をしてるんだろうと怪訝に思ってると少しして監視台の反対側のプールサイドでコースロープ移動に備えて待ってる僕のところに監視室からツっくんがやって来る。コースロープの移動には一方を持つ人ともう一方を持つ人のふたりが必要だ。ツっくんが言うにはリタちゃんが僕のひざを気遣って自分たちふたりでコースロープ移動をするから僕にはその間休んでて欲しいと伝えるようツっくんに言ったんだそうだ。これには心底驚いた。なんぼ気を遣えると言ってもそこまできめ細かくとは思わなかった。いやいやコースロープ移動くらい膝が多少痛んでもいくらでもなんとかするぜと思ったけどその気遣いが心の底からうれしかったので黙って任せることにした。その後もことある毎にいろいろな作業をふたりで引き受けてくれて僕は普段やってることをひとつもやらずに楽させてもらった。帰り際ふたりには丁寧にお礼を言った。おかげで助かったよ。今日はほんとにどうもありがとう。ふたりともにこにこしてお疲れ様でしたと言ってくれた。ともすれば自分ひとりが楽をしようと画策する学生バイトも多い中ほんとに心洗われる体験をさせてもらった。うちに帰って家人にその話をするとでもねと言う。あなたがいつも率先して仕事を片づけてるからこういうときこそ自分たちが力にならなきゃって思ってくれるんだと私は思うな。そういうこともあるのかも知れない。自分じゃよくわからないけど。ただひとつはっきりしてるのは僕は彼らから嫌われたり疎まれたりは少なくともしてないってことだ。そしてそのことが僕にはしみじみうれしい。