指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

求人広告。(その1)

前々から人手不足が指摘されどういう形でかアルバイトもしくはパートを雇わねばならないことははっきりしていたが、社長が重い腰を上げたのは一年で最も忙しいこの時期だった。忙しい時期に求人するのは一見理にかなっているようだが、実際には忙しいときのなけなしの時間を新しく来た人に仕事を教えたり指導したりすることに使わなければならず、そこまで考え合わせると逆効果と言ってもそれほど間違いではない。本当は比較的暇な時期に求人をして人に来てもらい、少し時間をかけてスキルを身につけさせ繁忙期には実戦力として勘定に入れられるようなスケジュールを組むべきだった。だから早く求人をと希望を出していたが上はそういう話をあまり聞いていない。なのに先々週くらいになっていきなり求人広告を出せと言う。この時期に誰が求人広告を出すための時間を割き面接などの雑事をこなすのかと問うとお前だと言う。新しい社長が来てもう少しで二年になるが人となりもわかって来た今では彼の欠点ばかりが目につく。
それで業者に頼んで新聞の折り込み広告に求人を出してもらうことにして打ち合わせや校正などを経て実際に求人広告が出たのが今週の日曜だった。よくは知らないが今は雇用状況から言っても12月という時期から言ってもあまり求人に適したタイミングではないらしい。どの企業も人手不足解消に苦慮していると業者がのっけから逃げ道をつくり始めるのでもしかしたらひとりも応募がないかも知れないとまで腹をくくった。少しでも応募につながるようにと業者がくれたアドバイスは以下のようなものだった。
1.きつい仕事ではないような印象をつくること。
2.試用期間などを設けず、今すぐにしかも長期でしっかり雇用したい旨を明記すること。
3.年齢制限は民間の求人ではまだ許容されているものの公的な求人では御法度になりつつあり、なるべくなら設けない方がいいこと。
4.必須というのでなければパソコンとか英語とかいうことも言わない方がいいこと。
もちろんぶっちゃけ時給を上げればもっと可能性が高まるとかいうことも言いたかったかも知れないがさすがにそれは言われなかった。そんなことは言われなくても誰にでもわかる。これだけしかお金が出せない、そこからスタートする話だってあるのだ。
それでまあ会社の生の希望からするとかなりゆるゆるな求人広告となった。週三日以上とあるができれば毎日来て欲しいし、拘束時間だってもう少し長いとありがたい。行く行くは正社員として雇用したいがそのためにも本当は人物を見定める試用期間を設定しておきたかった。などなど。
そうして迎えた月曜の朝。
(つづく)