指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

それだけで随分楽。

 今日のバイトはシフト係のしーちゃんがグループラインで募集してたのに応える形で希望よりも三十分だけ長く入ったら一時間受付の業務に回してもらえた。三時間の勤務のうち一時間受付だとそれだけで随分楽だ。シフト係はふたりいてひとりはしーちゃんでもうひとりは従来「若造」と呼んできた男の子。この若造に任せておくと受付の仕事なんかまあ回って来ない。でもしーちゃんはすごく頻繁に受付に回してくれる。これは以前からそうだったので彼女と仲直り(という言葉がいちばん近いと思う。)できてよかったと思っている。
 スイムは千メートルに26分09秒もかかってしまった。昨日より一分以上も遅くてまあ野良スイマーだからそれほどタイムが安定しないのも無理からぬことかも知れないけど本人なりにはいささかがっかりしている。五十メートル当たり昨日より一秒以上遅れている。理由はよくわからない。疲れてるんじゃないのと家人は言うけどこれまでだって結構疲れてたのにタイムは伸びてきた。明日は今日のタイムから一分以上も縮めなければならないのかと思うとかなりうんざりする。でもまあ明日も泳ぐ。最近それほどつらくないので泳ぐのが楽しみになって来ている。
 一時72キロに近かった体重がここ数日70キロを切っている。体重が増えるのは基本的にあまり歓迎すべき事態ではないと考えている。持病もあるしね。あと一ヶ月ちょいでまた検査なのでなんとか今の状態をキープして臨みたい。腹持ちがいいと思ってたプロテインが最近は飲んでもあまり腹の足しにならない。だからしょっちゅうおなかが空いている。もともとそれほど量を食べる方ではないし間食もしないので体重を増やす要素も多くない。もしも筋肉量が増えての体重増加ならばそれはもちろん望ましい。でも体の変化というのもそう顕著には現れてなくて相変わらずおなかに脂肪はついてるしあごも二重あごだ。でもひざの上に少しだけ筋肉のかたまりが現れたのと二の腕から手首の辺りにかけてひと筋青い筋が浮くようになったのはうれしく思いながら見ている。父親の手の甲が筋張ってるのを子供心にかっこいいと思っていた。ずっとぽっちゃり型だった自分の手の甲にはなかなか筋が現れず大人になって現れても父親のような美しい曲線は描かれなかった。今でも誰かの手の甲に青筋が立ってるのを見ると反射的に美しいと感じるし自分の手の甲にはコンプレックスを抱き続けている。だから自分の体に少しでも青い筋が増えたらそれは慶賀すべきことだ。と書いてきて思い当たるのは僕は自分で思うよりずっと父親のことが好きだったのかも知れないということだ。思いつくままに青筋について書いて来たけどそれは父親への思いに端を発してるのかも知れない。考えても考えても考えても自分の心というのはよくわからない。酒中に真ありという言葉通り酔っ払って普段思いつかないようなことを思いついたとき思いがけず自分の中の「真」に気づく。ということなのかも知れない。青筋へのあこがれがそのまま父親へのあこがれ(か、その残滓)だったとしたら天国にいる(かも知れない)父親は確かに喜んでくれることだろう。僕が父親なら子供がこんなことを書いてくれたら間違いなくうれしいだろうから。