指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

コミュニケーション。

歩道の真ん中を杖をついたおばさんがゆっくり歩いて行く。僕は自分の歩調で後ろから彼女に近づいて行きもうすぐ追い越すところだ。前からは三、四年生くらいの男の子の乗った小さな自転車が近づいて来る。彼も僕もおばさんを迂回しなければならない。歩道のおばさんの両側は空いてるので彼はどちらからすれ違ってもいいし、僕もどちらから追い越しても構わない。でもふたり同時に同じ側を選べば男の子と僕は正面からぶつかってしまう。ここで一番いたわられなければならないのはおばさんで、二番目が男の子で、僕は少しもいたわられる必要がない。男の子がどちらからすれ違うつもりなのかわからないので、僕はおばさんの真後ろまで来て歩調を緩め、男の子がどちらかに決めるのを待っている。男の子は不意に彼の進行方向から見て右に大きくハンドルを切る。それで僕も僕から見て右の方からできるだけ大きく迂回しながらおばさんを追い越す。数瞬ですれ違いと追い越しが無事に終わる。そしてコミュニケーションがとてもスムーズにとれたときの満足感が残る。男の子と僕は、おばさんにできるだけ負担をかけないという方針を共有していたからだ。