指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

初めての村上春樹。

おおきな木
篠崎書林がああいうことになってしまって、SilversteinのThe Giving Treeの日本語の版権が宙に浮いてしまったということだと思われる。それをあすなろ書房が買い取り新たに村上春樹さんが訳されて出版されたということだろう。
原書では読んでいたけど翻訳は読んでなかった。今回翻訳を読んでみようと思ったのは、やはり訳者が村上さんであることが大きい。それで思ったんだけど、個人的に村上さんの翻訳は読み残しているものが多い。クリス・ヴァン・オールズバーグのものはほぼ全滅だし、アーシュラ・ルグインも読んでいない。それとカーヴァーは数えるほどしか読んでいない。どうして今までほっておけたのか我ながらよくわからない。少しずつ買い集めて読んで行きたいと改めて思った。
原書を読んだときとは明らかに印象が違った。決定的なのは木が女性形で書かれていることに気づいていなかったことだ。sheとかherとかあっても、木の発言の部分は英語では性別を感じさせない。それが日本語では一人称が「わたし」とあるだけできちんと女性を感じさせる。モノラルがステレオになったみたいに、これだけで作品の深みが増した気がした。ただし、これは前の翻訳でも同じことだったかも知れない。じゃあ村上さんが訳した意味は?と問うと、もちろんそれはある。読めばわかる。
それから訳者あとがきがすばらしい。もう本当にすばらしくて、申し訳ないことかも知れないけど、本編よりも感動した。短くシンプルにわかりやすく、村上さんの物語に対する考え方が表明されている。そしてそこには読者に対する、言葉は正しくないかも知れないけど、思いやりと言うか優しさと言うか、そういうものが感じ取れる。もしかしたら村上さんは読者をやや子供寄りに想定してこれを書かれたのかも知れない。
子供が興味を示したので手渡した。彼にとってこれが初めての村上春樹だ。