指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

最後の一冊。

SPEEDBOY! (講談社BOX) 舞城王太郎著 「SPEEDBOY!」
舞城さんの単行本、文庫本で、現在手に入る作品はこれで全部読んだことになると思う。最後の一冊だ。短編連作と言うか、主人公が「成雄」で「楠夏」とか「ハッケン」こと「長谷川」とか何人かのキャラクターが共通しているけど全部同じ世界の話かどうかは不明だ。おそらくそうじゃないんじゃないかという気がする。また短編連作と書いたけどもしかしたら正確にはそうじゃないかも知れない。初出では七編がいっぺんに雑誌に掲載されたらしいからだ。それはこの作品を読むのにとても重要な情報じゃないかと思われる。作者はこの短編群を毎月の連載とかではなく一気に読んで欲しかったことになるからだ。それはなぜか。
舞台はおなじみの西暁町だったりこれもおなじみの調布市だったりする。そしてどれも主人公の一人称で同じような文体がとられている。主人公は異様に足が速く背中に鬣が生えていて、楠夏との間に愛に似たものがある。またどの作品にも共通して触れられている訳ではないが、主人公はもらわれっ子でそのせいかどうかわからないが性格に問題がある。あるいはその問題の大本は鬣なのかも知れない。本人は何度か否定しているけどその鬣が彼を異類の方へ近づけているのかも知れない。
それだけ縛りがあればどの作品も似た印象になるのは避けられないように思われる。でもうまく言えないんだけど各作品で物語のほどけ方と言うか、他の作品では黙ってたんだけどこの作品でだけこれを明かそうと言うか、そういうポイントがどの作品にもある気がした。その描き分けができるかどうか、作者が試みているのはそういうことじゃないかと思われる。そういう意味では長編とは書き方が違うし、実際長編とは読後感がかなり異なる。ずっと軽く、スピーディーだ。もっとも長編だってその文体は、軽くてスピーディーなんだけど、それとはまた違った意味合いでだ。
ちなみにこの本の成雄には姓が無い。でももちろん獅見朋成雄にとてもよく似ている。