指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

秋刀魚の味。

肉より魚が好きだ。中でも秋刀魚の塩焼きは大好物だ。独身のときは近くの定食屋でよく食べた。秋刀魚焼き定食は通年あるけど、秋になるとその年の秋刀魚が焼かれ他の季節に比べると格段においしかった。
今日は久しぶりに秋刀魚の焼いたのが夕食だった。家人からそう知らされ軽くうきうきした。そう言えば食べたい食べたいと思いながら随分長い間食べていなかった気がしたからだ。今年初めての秋刀魚だから一年ぶりくらいかな、と思った。でもとんでもなかった。家人によると、秋刀魚を焼くと後始末とかが割と大変なので、子供ができてからは愚か妊娠中から一度も焼いていないということだった。とすると実に5年ぶりにありついた秋刀魚ということになる。そんなに長い間一度も秋刀魚を口にせずでもしっかりと味を憶えていてしかも好物のままだということが、すごく不思議なことに思えた。
 結婚した年の秋は週に1、2度食べていたのだそうだ。あの頃は秋刀魚焼くと私の分も開いて骨とか取ってくれたよね、と言われた。そんなの一顧だにせず、さっさと自分の分を開いてはらわたの苦みを味わっているときのことだった。言われてみればそういうこともあったかな。秋刀魚苦いかしょっぱいか。