指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

売れてるんじゃないだろうか。

顔のない裸体たち

顔のない裸体たち

 平野啓一郎さんの作品は大抵読んでいる。「日蝕」が大変おもしろかったからだ。「葬送」も途中こちらがややだれ気味になりながらも読み通した。あれはでも、後半になると文体が軽くなりほとんど歴史小説のようになってしまった気がした。だからいけないってこともないんだけど。
という訳で本作も書店で見つけて即買った。ただちょっと手に取るのが恥ずかしいような表紙なので新刊が大々的に並べられている表の方の売り場ではなく、書架の並ぶ奥の方に入って行って平積みされているのを手にした。同じように感じる人が多かったらしく、そちらの平積みは他の本に比べて明らかに低くなっていた。それで結構売れてるんじゃないかと思った。
出会い系サイトで知り合った男と女教師の話で、不吉な事件が最後に起こることが何度か予告されている。ただその事件自体は特に重要ではない気がした。もっと言うと、それまでの成り行きと事件はあまり関連がないように思われた。とりあえず何かが起こらないと物語に結末がつかないので、任意の選択肢の中から便宜的に選ばれた結末みたいだ。もちろん最後まで素知らぬ顔をしてはいるけど、そのことは作者自身も自覚しているような気がする。ただ、この結末を無効なものと判断すると、そこに向かって収斂して行く物語の、ある部分は明らかに余計な描写のように思われて来てしまう。たとえば女教師の性格形成の一部などがそうだ。
ふたりの関係の異様さが高じた末の悲劇という結末以外、この物語は受け付けないのではないだろうか。そんな気がする。