指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

お待たせいたしました。

池袋リブロで開かれた綿矢りささんのサイン会に行って来た。午後五時からで十五分くらい前に会場に着いた。すでに長い列ができていた。後で考えると僕は三十数番目の客だったようだ。五時になってアナウンスがありサイン会が始まるとかなり大きな人だかりができた。
サインが間近になる最前列に辿り着くまで綿矢さんの姿はよく見えなかった。客は圧倒的に男性が多くて女性の数はほんの数えるほどだった。おじさんも結構いた。僕もそのひとりなんだけど。彼らの中にはやっぱりちょっとアキバ系を思わせる人たちもいた。グレーや黒のアウター、ミネラルウォーターのペットボトルを突っ込んだでかいバックパック、あのちょっと独特のまなざし。何となく居心地が悪い。何度も汗を拭った。
綿矢さんは線の細いかわいらしいお嬢さんで白いブラウスを身につけ、それがライトに照らされてわずかに上気した頬を目立たせていた。グラスに注がれた水を口に含みながら丁寧にサインをし時々横を向いて鼻をかんだ。時期的に花粉症なのかなと思った。左の手に黒の油性マーカーを握っていた。予想外だったのはとても気さくな感じだったことだ。もちろん偏見なんだけどもっと無愛想な人かと思っていたが、よく笑い客にも積極的に話しかけていた。僕も話しかけられた。緊張していると言うよりは、すごく気をつかっているように見受けられた。
僕はいつも使っているミロスラフ・サセックの絵本のダストカバーでつくったブックカバーを「夢を与える」にかけて行った。サセックの絵本のダストカバーならいくらでも調達できる伝手があるのだ。コーティングされていて丈夫だし、デザインもなかなかかっこいい。綿矢さんの目にそれが少しでもとまったらいいなと思ったということは、僕にもアキバ系の血が流れているということかも知れない。
この前書いたように綿矢さんのお名前で検索されてここにいらっしゃる方が多い。サイン会という検索語と一緒にされている方も多いのでもしかしたら整理券の転売みたいなのを求めていらっしゃるのかも知れない。実際ウェブのオークションには出回っているらしい。だとしたら僕には何のお役にも立てない。オークションにも転売にもまるで興味がないからだ。この記事がせめてものお詫びの気持ちです。