- 作者: 綿矢りさ
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2007/02/08
- メディア: 単行本
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そこを突かれるとおそらく大抵の親は立つ瀬がないに違いない。お前は本当に子供のためだけを思っているかと問われるとそうだと答えるにはかなりの後ろめたさが伴うからだ。親の心の中では子の利益と自分の利益とは一致していると見なされているが、この場合の子の利益は親が判断した子の利益であって子自身が判断したものではない。それに気づいていることが親の後ろめたさの根拠だ。そこまで細かく言わなくても子を思わない親がいるだろうか、というのが親の逃げ口上になる。それは子の疑いに対する真正面からの解答にはなっていない。お互いの感情の揺れ幅によっては和解する瞬間もあるかも知れないが、本質的にこの問題をクリアすることは難しいような気がする。
主人公にとって夢を与え続けることはこの問題と何とか折り合いをつけながら母親の設定した範囲から逸脱しないことだった。でも主人公にはそうすることができなかった。依存とか自分の夢の仮託とかいろいろな見方から彼女の母親の姿は主人公にとって疑わしく見えてしまう。そして主人公はどこか別の場所に出口を求めてしまう。でも主人公の立場も彼女の母親の立場も必然的なものに思われた。どちらが悪いということは言えない気がする。主人公の信じられないほどの軽率ささえ、必然の手応えを持っている。彼女はそれほど追いつめられていたからだ。