指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

枯木灘ブーム?

アンテナに登録させていただいているブログのふたつで最近、相次いで中上健次さんの「枯木灘」の名前があがっていた。偶然かも知れない。でももしかすると深海を探索中に思いがけずシーラカンスが発見されてしまったみたいに、何かの加減で否応なく「枯木灘」の発見が相次いでいるのかも知れない。「地の果て至上の時」で拡散してしまった印象の「秋幸サーガ」だが、芥川賞受賞の「岬」よりも開いている「枯木灘」が一番いい作品だという気がする。「岬」は「枯木灘」から比べるとやや舌足らずな印象だ。これは多分作者の自分の文体への馴染み方、習熟度の違いであるように思われる。過不足無くとは言わないが、少なくとも「岬」よりも「枯木灘」の方が文体のバランスがいい。
秋幸が異母弟を殺してから現実には何年が経っているのだろうか。設定によれば秋幸は今何歳なのだろうか。そんな疑問が思い浮かぶのは、亡くなってから十年が経つ中上さんの作品がそろそろ風化して行くのを感じるからだ。少なくともこのブログで中上さんの作品に触れる気にならないのは、中上さんの生前から中上さんについて語る相手がいなかったせいが大きい。まあ読むのが面倒だし誰にでも勧められる作品でもないから仕方ない。
でも薬物体験の無い者を信じない、と言い切った中上さんの言葉に、薬物体験のない自分は今でもちょっと傷ついている。そのくらいには作者としての中上さんは魅力的だ。味が薄めでよければ「日輪の翼」を、濃いめの味がお好きなら「千年の愉楽」を勧める。そしていろいろ読んだ挙げ句に「異族」を読んだ後の話やけどぉ、これちょっとまとまってないんですけどこれが中上さんの最後の境地であって読んで良かったと思うかぁ、何やこれめちゃくちゃやんおどれ読者をなめとんのかどつかれるぞこりゃ、とおもうかわぁ、
自由だ〜!