指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

「アウチですか、少年」

ホルモー六景

ホルモー六景

要するにホルモーの全景が紹介された後でなければこの六景は生きようがない訳だ。その点作者は前作を本当によく生かしてこの外伝的六編を書いていると思う。そればかりでなく作者はどちらかと言えば短編に向いているような気さえする。短編の方がはるかに神経が行き届いてる感が出ているからだ。少なくとも二冊読んだ限りでは。
第二景「ローマ風の休日」の「アウチですか、少年」という凡ちゃんの台詞が異様に心に残った。何層にも積み重ねられたとても味わい深い台詞だと思う。アウチという言葉の選び方、その相手が年下の男の子であること、ですかが丁寧語であること、少年といういろいろな感情のこもった呼びかけ方、凡ちゃんが自分の方から話しかけていること、その他にも凡ちゃんのこのときの思いを少なくともあとふたつの方向から忖度すると、その陰影の微妙さは際立っている。このひと言が読めただけでもこの本を読む価値があった。
でもみんな「鴨川ホルモー」の方がよかったって言うんだよ。僕には信じられないんだけど。ほんとに。