指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

エリ、エリ、レマ、サバクタニ。

宿屋めぐり

宿屋めぐり

この作品に書かれた物語が「宿屋めぐり」というタイトルにふさわしいかどうかわからないことで、逆に作者が「宿屋めぐり」という言葉にどれほど惹かれているかがわかるような気がする。一日歩いて日が暮れて宿に辿り着いて、アテと酒のええのんを五、六本、熱うして持って来て、と言いつけるような旅暮らしは、作者の心を素(す)でそそるものなんじゃないかと思われた。
だとすればこの作品の成り立ちはこうなる。作者はまず誰からも文句をつけられる恐れの無い、強固なホームグラウンドを設定しその中で自分独自の倫理を自由に展開しまた徹底的に検討してみたかった。「宿屋めぐり」というタイトルはそうした自由気ままな展開と、どこまでも自分を突き詰めて行く検討とから生まれる、作者にだけ許された愉楽を象徴していることになる。この大枠を受け入れてしまうと、作品内世界が現実からわざわざ二重に遠ざけられていることや、現代と時代劇が混淆されていることや、時間の流れにどうやら断絶や跳躍などが潜んでいるように読めること、あるいは超常現象などが別に不自然でないように思えて来る。それらはあくまで展開と検討のための道具立てであり、作者が必要だと思えば自由に盛り込むことができるのだ。それが物語を壊さないのは、この物語がどこまでも作者に属する、作者のための「宿屋めぐり」だからだ。
とか思っていたんだけど、最後がすごかったな。でもこれ以上はネタバレになるので。