指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

しからば完全犯罪とは何か?それはもちろん解釈不可能な作品を作ることである。(p161)

山ん中の獅見朋成雄 (講談社ノベルス)

山ん中の獅見朋成雄 (講談社ノベルス)

相次いで二冊読み終えた。前者は初見で後者は何度目かの読み返しだけどどちらもあまり深く読めた気がしない。でもどちらもとてもおもしろかったし、特に後者は大変好きな作品だ。僕の持っているバージョンは講談社文庫の初版でカバー挿画を日比野克彦さんが描いている。初めて読んだのが二十年ちょっと前でそれから折に触れて読み返して来たけど、今回特に印象に残ったのがまるで古びていないところだった。文体だってすごくいいリズムだし、用語だって今でも全然通用する気がした(「トルコ風呂」は除く。でもこれは作品のせいではない。)。解釈不可能というのはでたらめということとは違う。でたらめは意外と解釈ができる。
前者は簡単に言うと成長の物語なんだけど、彼が成長のために潜り抜ける異界がすごくシステマティックなものとして設定されている。その中で主人公はタブーも犯すし、あまり反省もしない。耳が良くて擬音の表現に多くの行が費やされているが、それだけではぐずぐずになってしまうので導き手が設定されている。その人は割と倫理を振りかざすけど主人公は聞く耳を持たない。これで結末にたどり着けるとはちぐはぐと言えばちぐはぐだ。愛が導入されると、人は多かれ少なかれ倫理的にならざるを得ないってこと?愛があらゆる秩序の元だってこと?