指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

たとえばピンチョンの読み方。

柴田さんと高橋さんの小説の読み方、書き方、訳し方

柴田さんと高橋さんの小説の読み方、書き方、訳し方

たとえばピンチョンの読み方が書いてある。ピンチョンの読み方なんて誰からも聞いたことがない。もっとも読み方を教えてもらったからってその日からピンチョンが読めるようにはならないところが文学の奥の深いところな訳だけど、それにしたってピンチョンの読み方がですよ、書いてあるんですよ、この本には。おそらく高橋さんの書評や評論にピンチョンの読み方が書かれることはないんじゃないかという気がする。そこでは必ず読者との間にしかるべき距離が取られているからだ。あまりあからさまなことは言わないというのが高橋さんの読者に対する礼の尽くし方のように思われるほどだ。でもこの対談の相手は柴田元幸さんで言ってみれば同じ業界の仲間と言うか同志と言うかそういうこともあり、高橋さんのガードはかなり甘くなっていると言っていい。ピンチョンの読み方、大江健三郎さんより中上健次さんの方が理知的な作家であること、登場が早過ぎて不幸な受け入れられ方しかしなかった片岡義男さんなど、書かれたものから比べるとかなり下世話な指摘が満載でそこが本当におもしろい。相手が柴田さんでなかったらこういうことは起きなかった気がする。あ、でもこの本の真骨頂はまたちょっと別のところにあるんだけど。
ピンチョンの未訳の作品「メイソン&ディクソン」は柴田さんが訳されるそうだ。今までのものより読みやすいということですごく期待している。それにしてもまた読みたい本が増えた。とりあえずチャールズ・ブコウスキーの「パルプ」とドン・デリーロの「リブラ 時の秤」は読まなきゃ。鴎外読もうと決めたのになかなか戻って行けない。