指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

密度の低い部屋。

パレード (幻冬舎文庫) 吉田修一著「パレード」
これも貸してくれる人がいて読んだ。吉田修一さんの作品は「パークライフ」と「7月24日通り」だけ読んでいて、「悪人」も興味があるけど今のところ読む予定は無い。
奇妙と言えば奇妙な話で、この感じはなんだろうなと考えて思いついたのが新しい家族のあり方みたいなものだった。もちろんこの作品で同じ部屋に同居している、あるいは同居していたことのある男女は家族ではない。でもおそらくこれからの家族はこんな感じにゆるくつながって行くことになるんじゃないかと、予感のように感じられた。この部屋で同居するために誰もが自分の形をこの部屋向きにつくり変えている。共同生活では決定的な対立や衝突を避けなければならないからだ。そのためにこの部屋の中は何かの密度がとても低いように感じられる。
でもひとりひとりはそれなりに暗い体験なり熱い思いなり、そうしたものを胸に秘めている。中にはほとんど共有と言っていいほど似た思いを持つふたりもいる。でも彼らはそれを共有しない。誰かに話したいと思ってもその相手として目の前の共同生活者は真っ先に除外されてしまう。この密度の低さの中では対立や衝突と同様、胸襟を開くとか、共感を禁じ得ないとか、そういう体験もまた起こらないからだ。
おそらく彼らが自分にとって重要で大きな体験をするとしたら、それは必ずこの部屋以外のどこか別の時間と場所においてだ。そんな事態がゆるくて新しい家族のつながりを思わせたのだと思う。個人的にはそんな家族像はご免だと思っているけれど。
この作品と、たとえば長嶋有さんの「ねたあとに」の共同生活を比べてみるとおもしろいかも知れない。