指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

突き放す視線。

憂鬱たち 金原ひとみ著 「憂鬱たち」
主人公は精神科へ行きたい。でも彼女はそこへたどり着く前に、途中のどこかに必ず引っかかってしまう。収録されている七つの短編がそんな設定で共通している。彼女の世界観や想像力の働かせ方はなるほど時にとても極端で病的なものを感じさせる。でもそれに導かれた先にあるのがたかだか「憂鬱」くらいなのだとしたら、金原さんの作品に出て来る登場人物としてはむしろ症状が軽い方じゃないだろうか。たとえばこの前読んだ「星へ落ちる」なんかの方が主人公の精神状態はよほど深刻なように思われる。なぜなら「憂鬱たち」の主人公は自分が他の人たちの目に異様に映りはしないだろうかという、自分を突き放した視線を持ち得ているからだ。それが金原さんの作品としては新鮮な気がした。個人的には七編のうち何編か(最低でも二編ほど。)はどたばた喜劇のようにユーモラスなものに読めた。それは作者の意図と考えて間違いないように思われる。これまで読んだ金原さんの作品ではそんなのは他に無い。