指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

春、なのに。

春、バーニーズで 吉田修一著 「春、バーニーズで」
最後の一編を除き、短編連作と言っていいと思う。「最後の息子」の続きということだ。「最後の息子」がどういう作品か忘れていたけど表題作「春、バーニーズで」を読んですぐに思い出した。あのゲイの話だ。
吉田さんの作品は不思議だとずっと書いて来て、今もその感じは変わらない。おそらくこの連作は「パレード」や「長崎乱楽坂」を書いた頃かその後に書かれていると思われるけど、それらの作品と比べてなんて言うかすごく初々しい感じがする。しっかりした舞台を設定してその上に厚みのある物語をつくりあげて行くより、微細なペン先で線を引いて行きどんな凹凸もあるがままに写し取るみたいな風に書かれている気がする。あえてテーマを挙げるとすると「なのに」ということになるんじゃないかと思われる。状況Aがある。なのに、状況Bになって行く。その転換の唐突で不思議な感じ。そんな印象が共通しているような気がした。
最後に置かれた短編「楽園」だけは連作とは言えないと思う。でも「なのに」に近い、逆接と言うか、逆を行く感じが、それまでの連作と軌を一にしているように思われた。