指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

スピードに乗らない。

ゴッドスター 古川日出男著 「ゴッドスター」
あとがきとは書いてないけどあとがきみたいな位置にある文章の中にこうある。

(前略)
この作品には読解は要らない。身をゆだねてほしいと思う。
(後略)

読解より身をゆだねる方が難しいと言うか、なんて言うか生理的に気持ち悪い。それは本編を読みながらも感じたことだ。確かにスピーディーな文体だ。語り手自身も語りのスピードについて言及してる。でもだからと言ってその語りのスピードに身をゆだねていいのか。自ずから備わっているスピードでは満足できずに言わば人工的にスピードを上げ下げしようとしたら文体に工夫が要る。この作品が工夫された文体で形作られていることは最初のページから明らかだ。少しだけ追加する。あるいは少しだけ追加して繰り返す。とりあえず言い切ってしまい、後で微調整する。でもそこに語り手の自意識が不必要に籠もってしまう。語り手は密度の高い自意識をまき散らしつつ薄っぺらいことがスピーディーと信じているかのようになりふり構わず先へ先へと進み続ける。するとあるときから語り手は抽象になってしまう気がする。それがとても不自由な感じだった。