指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

うまくいくといいね。

今日ハロワで起業を理由に失業保険の基本給付の停止を申し込んだ。結構時間がかかった。一ヶ月以内でいいので、創業計画書とか開業届とか物件の契約書とかのコピーが欲しいということでちょっと驚く。これで失業者ではなくなって前にも書いた通りそれ自体は慶賀に堪えないけど完全に退路を断たれたことになる。電源ケーブル(気になって今調べたら、アンビリカル・ケーブルというらしい)が抜かれ非常用内部電源だけになったエヴァンゲリオンが繰り返しイメージに浮かぶ。何かが恐ろしい勢いでゼロを目指して減って行く。
でも一方でちょっとだけ明るいイメージで「羊をめぐる冒険」のことも思い浮かべている。北海道の山荘で鼠の指示に従ってコードをつなげるシーン(偶然だがケーブルを切るイメージの次はつなげたコードだ。)の後、こんな記述がある。

(前略)僕は柱時計をもとに戻してから、鏡の前に立って僕自身に最後のあいさつをした。
「うまくいくといいね」と僕は言った。
「うまくいくといいね」と相手は言った。
(後略)

うまくいくといいね。絶妙な言葉のように思われる。主人公も退路を断たれ美しい耳の彼女も親友の鼠も失って孤立し自分が正しいことをしているかどうか皆目わかってなかった。今の僕よりずっとひどい。彼が弱々しく、それでもこう願わなければならなかった気持ちが、痛いほどよくわかる。
うまくいくといいね。
羊をめぐる冒険」はハッピーエンドではないかも知れないけど結末には救いの予感がある。せめてそういう事態に自分も向かって行けると信じることしか、今の僕にはできない。