指栞(ゆびしおり)

すまじきものは宮仕え。

女の子からの手紙。

それまでどんな話をしていたのか憶えていないが、土曜日の夕方になって子供が○○ちゃんという女の子から手紙をもらった、というようなことを言い出した。よくわからないので詳しく尋ねてみると、前日に○○ちゃんから手紙をもらったのだが、読まずに幼稚園のロッカーに置いて来たということだった。ディズニープリンセスの封筒に入っていたと言うので、おそらく幼稚園で書かれたものではない。家で書いたものをわざわざ幼稚園まで持って来て手渡してくれたことになる。その意味はあまり小さくないように思えた。
月曜日まで幼稚園はないので、家人と様々に手紙の中身を想像した。実は幼稚園児でもすでに誰々君が好きとか誰々ちゃんがかわいいという気持ちが芽生えるらしく(つか、これは自分でも憶えがある。)、お母さん同士の話の中ではそういうことが出てくると言う。でも○○ちゃんもうちの子供もそういった話題にこれまで上ったことがなかった。うちの子はひとり意中の女の子がいるらしいが、残念ながら今のところ片思いであることがはっきりしているので誰にも話していない。
ことによるとその手紙は子供が初めてもらうラブレターのような性質のものかも知れなかった。どうしてもそういう方に考えが傾いて、家人も僕も結構やきもきした。実は○○ちゃんとは最近登園時間が近く、いつもにこにこしながら子供におはようを言ってくれる。こちらは照れくさいのか澄ましている。そんなのを目にするにつけ、もしかしたら○○ちゃんはうちの子に何らかの好意みたいなものを持ってくれているのではないかという気がしていた。
どちらにしても手紙が紛失するのを防いだり、手紙のお礼を言わせたり、返事を書かせたりする必要があるので、結局月曜日に幼稚園に送って行ったとき僕がロッカーから手紙を持って来させることになった。その際○○ちゃんが傍にいなければいいなと思った。手紙がロッカーから出て来たり、それを僕が受け取ったりするところを、できれば○○ちゃんに見せたくなかった。
月曜の朝は幸い○○ちゃんと会わなかった。それで急いで手紙を持ってくるように言い、あたりを見回した後で子供とふたりで中を見てみた。それは何だかすごく美しい手紙のように思われた。直接好きだ嫌いだと書いてある訳ではないが、それが逆に彼女がその手紙を書き、封筒に入れ、しわにならないように幼稚園まで持って来て子供に手渡すまでの思いのひとつひとつを、より一層際立たせることになっている気がした。それは愛とか恋とか言う前の、透明で純粋な好意そのものだった。そういう思いを抱くことのできる子供というあり方に深く心を動かされた。
翌日、と言うのは今日のことだが、子供に返事を持たせた。○○ちゃんとふたりだけになる機会がたまたまあったので、子供を促して返事を渡させた。彼女はとてもうれしそうだった。