指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

カントみたい。

毎朝子供を幼稚園に送って行く。子供や自分の体調が優れなかったり保護者会などがあって送って行った直後が家人の出番だったりする日を除けば、この習慣は昨年四月以来崩れていない。僕はもともとが時間にはルーズな方で、子供の頃は割とよく遅刻ぎりぎりで登校していた。それが結構なストレスになることに大人になってから気づいた。間に合うか間に合わないかとずっと気にしながら道を急ぐより、時間に余裕を持ってゆっくり行った方がいい。それで意識して時間を守るようにし始めた。それから何年経つかわからないけど、今では特に意識しなくても遅刻ぎりぎりということはなくなった。
という訳で登園時間もかなりきちんと守っている。九時から十五分間が登園時間だが、九時を過ぎてから幼稚園に着くことは滅多にない。以前は登園後に靴を履き替えるのを手伝ったりということがあったが、今ではそういうことは自分でさせるようにという幼稚園側からの指示のために特に何もしない。ハイタッチをして子供を送り出すだけだ。だから帰りの時間も大体一定していて、自宅と幼稚園の途中にある会社に九時十五分前後に着く。
それで遅めにやって来る保護者から時計がわりに使われているという話を家人が聞いて来た。帰り道の僕とどのあたりですれ違うかで、今日の自分たちが遅めか早めかを判断しているそうだ。もうこんな所まで帰って来ている、と焦る日などもあるらしい。
町の人の時計がわりになっていたというイマヌエル・カントの有名な逸話は、でも真偽のほどが疑わしいと思っていたが、実際にカントみたいな話があった訳だ。それを知ったカント自身がそう思ったであろうように、特にうれしい話でもない。