指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

文豪列伝。

『坊っちゃん』の時代 (双葉文庫)

『坊っちゃん』の時代 (双葉文庫)

『坊っちゃん』の時代 (第2部) (双葉文庫)

『坊っちゃん』の時代 (第2部) (双葉文庫)

eブック・オフ、文庫オフに注文していた本は五月二日の火曜日に届いた。どの本から読み始めてもよかったのだけどもともと高橋源一郎さんに導かれて入手することに決めた本たちでもあるので、絶賛の度が著しくそのため最も食指を動かされた「『坊っちゃん』の時代」を手に取った。もともとマンガは松本零士さんの古い作品ともっと古いつげ義春さんの作品、大島弓子さんの作品や手塚さんの「ブラック・ジャック」など本当に数えるほどしか持っていない。最近の話題作などまるで読んでいなくてここでも高橋さんの読書量には感嘆するしかないが、結果としてマンガを読むのにひどく時間がかかるようになってしまった。ページを追うときの視線の動かし方が複雑で読むこと自体が億劫だ。
「『坊っちゃん』の時代」も決して読みやすくはなかった。でも暇な時間を惜しんで少しずつ熱心に読むことができた。明治の文豪たちの姿は他のどんな歴史群像よりもかっこよく見えることがその理由のひとつだ。政治で産業で芸術であるいはそれらも含めたあらゆる分野でたくさんの明治の人たちが近代化を受け止めなければならなかった。そしてあらゆる分野でヒーローたちが現れ彼らの強い物語が生まれたに違いない。その中でもなぜ文学を担った人々が一番かっこよく見えるか。実は僕にはその理由が今ひとつよくわからない。只単に個人的な好みの問題かも知れないし、もっと他に何かがあるのかも知れない。これはもう少し考えなければならない個人的な課題だ。
「『坊っちゃん』の時代」では物語の中心は夏目漱石の「坊っちゃん」の成立過程に置かれる。特にラフカディオ・ハーンの逸話には胸を突かれた。「第二部 秋の舞姫」は森鴎外の「舞姫」のモデルとなったと言われるエピソードが描かれる。近代を追う頭と追いつかずにもつれる足。そこに文豪たちの罪悪感があったように読める。
言葉の遠い向こうにしかない明治が生き生きと現前する気がする。