指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

ジョン・アーヴィングを忘れていた訳ではない。

ピギースニードを救う話 (新潮文庫)

ピギースニードを救う話 (新潮文庫)

もちろんジョン・アーヴィングを忘れていた訳ではない。「ガープの世界」がものすごく評判になったのはもしかしたら映画のせいだったかも知れないが、とにかく買って読んだ。特におもしろいとも思わなかった。二十年以上前の話じゃないかと思う。「ホテル・ニューハンプシャー」は映画を見た。ジョディー・フォスターと今はどこへ行ってしまったかわからないロブ・ロウが出てくる、重いテーマを軽い語り口で語りたい映画だった。悪くないとは思ったが、原作を読んでみようとは思わなかった。読んだらきっとがっかりするだろうと思った。あの「ガープの世界」でさえおもしろく読めなかったのだから、せいいっぱいプライドを保った言い方をしてもひどく相性の悪い作家だとしか思えなかった。プライドをかなぐり捨てて言えば、僕の頭ではどこがよいのかさっぱりわからない超高度な作家ということになった。
当時なぜそれほどまでにアーヴィングに取り組もうとしていたかと言えば、村上春樹さんの押しがあったからだ。
その後もアーヴィングはきちんきちんと作品を発表し、タイムラグの長短はその都度違ったけど結局はそのほとんどが翻訳された、と思う。でも気にはなりながら決して読もうとは思わなかった。アレルギーに近い反応だ。
でも本作でアーヴィングへのいとぐちが見つかった気がした。まず表題作がよかった。「ピギー・スニードを救う話」はピギー・スニードを救う話ではない。「ピギー・スニードを救う話」をテーマにした、ピギー・スニードがらみの、実際にはピギー・スニードを救わない話だ。物語の可能性と不可能性がそこでシビアに語られる。そしてこの体験をありきたりなトラウマにしないところがすごくいい。
本作がアーヴィングの主産物である長編小説だったら、他の作品と同じようにやり過ごしてそれで終わっていたと思う。でも唯一の短編&エッセイ集と言われて何か今までとは違うとっかかりみたいなものがどこかにあるかも知れないと思わされた。そういうとっかかりみたいなものが見つからないか何となく機を窺う程度には、アーヴィングを読みたいとずっと思って来たことになる。繰り返しになるけど、ジョン・アーヴィングのことを忘れたことはなかった。