指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

二本目の歯が抜けた。

子供のおなかににきびみたいな小さな突起ができているのに気づいたのは半年くらい前だったかと思う。風呂に入った後体を拭くときに気をつけて見続けていたんだけど、それは自然にはなくならず徐々にではあるけど大きくなって行った。最終的に幅五ミリくらいになり中に白い脂肪のかたまりのようなものが見えている。もしも悪性のものだと恐いので、今朝近くの皮膚科に連れて行って診てもらった。診断はミズイボということで、白くかたまって見えるのがそのウィルスだった。掻き壊してウィルスが外に出てしまうとあちこちに同じイボができることになるので、取ってしまいましょうと言われた。子供はこれを聞いてかなり怖がったが、ピンセットのふたつの先端に金属の小さな円がついた器具でつまんで引きちぎりあっと言う間に切除が終わった。その瞬間は痛かったかも知れないが、泣こうと思ったときにはもう全部終わっていて子供は泣く暇がなかった。幼稚園か水泳教室かで感染したのでしょうということだった。
夕方、今度は下の前歯がぐらぐらすると子供が言い出した。夕飯のときには歯が痛くてものが食べられないと言って心細いのか泣き始めた。しきりに歯をいじってはもうちょっとで取れそうと本人は言うが、経験から言ってそれからが結構長いんじゃないかと思われた。家人がちょっと力を入れて抜こうとしたら、歯は抜けずに血があふれ出した。子供は行くも地獄帰るも地獄といった態でずっと泣きじゃくっている。仕方なく覚悟を決めて僕が膝の上に座らせ、血を拭うために口に挟んでいるティッシュを点検するふりをして不意に力を込めてその歯を前に折り曲げた。歯は抜けて子供の胸を滑り落ちた。かなり痛かったろうが、こちらも必死だった。半端なことをしていてもいたずらに事態を長引かせるだけなのだから。
数分後、子供は機嫌と元気を取り戻し夕飯も普通に食べることができた。これで下の前歯が二本抜けた。少し前に抜けた一本目の歯の後には、真っ白い永久歯がほんの少しだけ顔をのぞかせている。
今日はいろいろなことがあって痛い思いもして自分は運が悪いのだろうか、というようなことを尋ねるので、全部うまく行ったのだからそういうのはどちらかと言えば運がいいと言うと思うと答えた。