指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

愛情の弱さについて。

ザ・ロード

ザ・ロード

途中までしか読んでいないんだけど、愛情というのは本当に弱いものだなあと、そういうことが身にしみて感じられる。これはおそらく愛情というものが原理的に持つ弱さなのだという気がする。今のところ主人公の我が子に対する愛情は、倫理という鎧をまとって初めて可能なものだ。倫理の骨格があるからこそ、主人公の愛情は存在することを許されるだけの強度を、かろうじて保っている。でなければ彼の配偶者が選んだような選択肢を、主人公が完全に排除することはできない。
僕たちが作品(この作品に限らず、たとえば世界の中心で何か叫ぶような作品)に描かれるなまの愛情(らしきもの)に感動するのは、愛情というのがいかに弱いものかを身にしみて知っているからかも知れない。そんなに弱いものをむき出しにして世界に立ち向かうときの、その勇気みたいなものに感動しているだけなのかも知れない。本当は人が愛情を根拠にして何か言うときには、愛情を補強する何か別のものが常に必要なのかも知れない。その補強する何かまでをひっくるめて愛情と言ってしまっている、それだけのことなのかも知れない。これは子供を持つ親が自省したならかなりのパーセンテージで共感してもらえる問いかけのように思われる。
子がそのことを親に見えるような形で照らし出す。僕の子供もおそらく日々同じ作業にいそしんでいる。それに気づく度に、この作品の舞台にあるような荒涼とした灰色の野原に繰り返し引きずり戻される気がする。そこは、本当によくできた比喩だけが指し示すことのできる、スーパーリアルな場所なのだ。