- 作者: 絲山秋子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/09
- メディア: 単行本
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そこに最近絲山秋子さんが急浮上して来た。僕は絲山さんの作品がとても好きだ。好きな現存日本人作家の五人目に加えてもいいと思っている。つか現状ですでに加わっている。
最新作はやさしい女の人たちの話だった。すごくやさしい女の人たちで、タイプは違うけどそれぞれにそれぞれの守備範囲での極北の姿として描かれている気がした。ひとりは現世的な意味ですごくひたむきに主人公を愛してくれる。ひとりは向こう側へ行ってしまい、着いて来ようとする主人公にこっちへ来てはいけないと拒絶する。ひとりは愛なのかどうかよくわからない強い態度で主人公に接するが、その反作用のようなおぼろげなヴィジョンを主人公に抱かせ、現実の彼女と彼女が抱かせるおぼろげなヴィジョンを足して初めて、彼女の真の姿をうかがえるような書き方になっている。そして彼女がそのヴィジョンと一体化した新たな姿を主人公に見せるには、大きな犠牲が必要だった。
作者はやさしさを知っている。やさしさが時にどれほど厳しい姿をとって現れるのかということも知っている。この作品には報われなかったやさしさが少なくともふたつある。それをどう受けとめるかはもちろん読者の問題だ。
あえて難をあげればこの作品の中に描かれるそれぞれのやさしさが、あまりに美しすぎてこの世の物とは思われないことだ。でもそれこそがこの作品の美しさなんだと、個人的には思っている。