指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

やさしい女たち。

ばかもの

ばかもの

好きな作家は誰かという問いにずらずらっと名前を列挙するのもいい年をしてどうかと思うけど、現存する日本人作家に限れば、村上春樹さんと高橋源一郎さん、村上龍さんと新井千裕さん(今でも作家なのかどうかよくわからないけど。)が思い浮かぶ。舞城王太郎さんと町田康さんは入らない。もちろん作品は愛好しているけど、好きな作家というのとはニュアンスが違う。これは好みの問題なので他人がどう言おうがちょっと動かせない気がする。
そこに最近絲山秋子さんが急浮上して来た。僕は絲山さんの作品がとても好きだ。好きな現存日本人作家の五人目に加えてもいいと思っている。つか現状ですでに加わっている。
最新作はやさしい女の人たちの話だった。すごくやさしい女の人たちで、タイプは違うけどそれぞれにそれぞれの守備範囲での極北の姿として描かれている気がした。ひとりは現世的な意味ですごくひたむきに主人公を愛してくれる。ひとりは向こう側へ行ってしまい、着いて来ようとする主人公にこっちへ来てはいけないと拒絶する。ひとりは愛なのかどうかよくわからない強い態度で主人公に接するが、その反作用のようなおぼろげなヴィジョンを主人公に抱かせ、現実の彼女と彼女が抱かせるおぼろげなヴィジョンを足して初めて、彼女の真の姿をうかがえるような書き方になっている。そして彼女がそのヴィジョンと一体化した新たな姿を主人公に見せるには、大きな犠牲が必要だった。
作者はやさしさを知っている。やさしさが時にどれほど厳しい姿をとって現れるのかということも知っている。この作品には報われなかったやさしさが少なくともふたつある。それをどう受けとめるかはもちろん読者の問題だ。
あえて難をあげればこの作品の中に描かれるそれぞれのやさしさが、あまりに美しすぎてこの世の物とは思われないことだ。でもそれこそがこの作品の美しさなんだと、個人的には思っている。