指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

和製ミルハウザー?

廃墟建築士

廃墟建築士

「となり町戦争」がおもしろかったので次の「バスジャック」も期待してたんだけど意外とがっかりしたことは前に書いた。そのまま三崎さんの新刊はスルーしていた。それがこの作品はタイトルに惹かれて、それでも用心深く図書館で順番待ちして借りた。読んでみて、買ってもよかったかなという気がした。何年か経って文庫になったら買って読み返すんじゃないかという気がする。それくらいおもしろく読んだ。大体がこの手の作品は大好きなのだ。
もちろん違うところもたくさんあるけど、表題作を読みながらスティーブン・ミルハウザーを連想した。道具立てのつくり方がとても似ていると思う。ただしミルハウザーの方がもうちょっと執拗に細部をつくり込んで、奇想をそれだけで自立させたい意図がある気がする。そして三崎さんの作品より全体的に情緒が乾いている。資質の違いもあると思うけど、お国柄の違いのようにも思われる。また一編目に出て来る女性はいつかどこかで見た女性だ。何か大切なものがあるために主人公のほのかな恋心を一顧だにしない。ただ今回はその信仰にも似た思いが、やや根拠の薄いもののようにも思われた。
残り二編はまあ問題も無い訳じゃないけどしっかり書いてあって読ませる。特に「図書館」はこれだけ荒唐無稽な話をよく支えて終わりまで持って行っていると思う。
ここから眺めると「バスジャック」はじっくり腰を据えて書く余裕が無かったのかなという気がして来る。とりあえず機会があれば読んでない二冊(だと思う。)も読んでみたいと思った。