指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

まさかと思ったけど。

冒険手帳―火のおこし方から、イカダの組み方まで (知恵の森文庫)
今日休みをとって家人と昼食をとりに行った先でたまたま書店に入ると、「なつかしい「おもちゃ」のつくりかた」という本が文庫の新刊になっていた。なんの気無しに手に取ると、それは小学生か中学生の頃繰り返し読んでいた本の文庫版だった。石川球太さんという漫画家の作品で、割り箸と輪ゴムでつくる鉄砲とか、やじろべいとかの作り方が紹介されている。すごく懐かしくなって買おうと思ったが、著者紹介のところに同じ人のもっと懐かしい作品のことが載っていた。それがこの「冒険手帳」で光文社知恵の森文庫に収録されているとある。すぐに光文社知恵の森文庫の棚を探すと、ちょっと手間取ったけど見つけることができた。まさかまた出会えるとは思ってなかった。引っ越しを繰り返す度に実家からは僕が子供の頃読んでいた本が捨てられたり、誰かに譲られたりして、今では一冊も残っていない。
これは火を熾すことから始まって、何かをつかまえて食べること、ナイフやロープの使い方や手入れの仕方、野営の方法や怪我の応急処置法までかなり実践的なサバイバル技術を、子供向けにやさしく紹介する本だ。
この本の初版が出版された1972年、うちは夏休み中に埼玉県大宮市へ引っ越した。僕はボーイスカウトを始めて見沼小をホームグラウンドにする団に属していた。ボーイスカウトではナイフもロープも手旗も扱う。テントで野営するし飯盒でご飯も炊く。おそらくそうしたことがこの本に対する興味をかき立てたのだと思われた。
でも今日読み返してみてそれはちょっと違うんじゃないかという気がした。今の自分の考え方が随分この本に影響されているように感じられたからだ。また具体的な技術の紹介はほとんど憶えていないのに文章はあちこちよく憶えていた。実用書のように記憶していたんだけど、文章の底に一本ぴしっとした考え方が貫かれていて、実はその考え方が自分はすごく気に入っていたんじゃないかと思われた。
余談だけど、この本にもある通りボーイスカウトでは追跡というゲームと言うかイベントと言うかがあって、それは先行するグループがあるルールに則ったサインを道筋に残して行き、後発のグループはそのサインを読み取りながら道を違えずに目的地まで誘導される、というものなんだけど、あるときその追跡で僕たちは「この先五歩の位置に手紙がある」というサインに出くわした。五歩を測ろうと最初の一歩を踏み出した次の瞬間、僕の体はVの字に折りたたまれて深い縦穴の中途に引っかかっていた。サインが書かれていたのが、農家が芋を保存しておく芋倉という穴を覆う、ぺらぺらのベニヤ板だったせいだ。配慮が足りない、と先行するグループは後でおとなたちに怒られていたけど、おかげで僕はその日の押しも押されぬヒーローになった。