指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

すごく惜しい気がする。

赤朽葉家の伝説 (創元推理文庫)
単行本が出たときにおもしろそうだけどいきなりハードカバーは勇気がいるな、と思った。桜庭さんの作品は読んだことがなかったからだ。文庫になったのを見つけたのはつい最近のように思っていたけど、去年の9月ということだ。買ったのはつい先日。
重厚で複雑な物語でとてもおもしろい。特に語り手の祖母赤朽葉万葉が主人公の第一部と母親赤朽葉毛鞠が主人公の第二部はストーリーを追って読む分にはほとんど傷が見当たらないようにも思われる。でもちょっと立ち止まって文体を味わうとほんの少し品格に欠ける気がする。確かに歴史と個人史が本当に上手に絡み合った物語だと言える。でも似たような方法をとっている、たとえば橋本治さんの作品に比べると、歴史の理解、ないし歴史のリアリティーのつくり方に脇の甘さが感じられる。紋切り型の言い回しも感興を削ぐ。これだけの力業なのに本当に惜しい気がする。
第三部になるとあまり感情移入できない語り手の話になる。語り手の駄目さ加減というのも、作者によれば歴史の必然ということになるんだろうけど、個人的にはまるで共感できなかった。作者自身の地声とあまり区別されていない最後のメッセージは確かに悪くない。でも語り手の現在が世代として必然だと読者に見なされれば、おそらくもっと強く光り輝いたに違いない。
もうひとつ、この作品はミステリー以外の落としどころも充分見つけられたと思う。ミステリーだからいけないという訳ではないが、謎の種明かしよりも考えつくのが難しい結末を読みたかった。
繰り返すけどすごく惜しい気がする。桜庭さんのこれより後の作品をもう一作読んでみたいと思った。