指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

リハビリ本。

フィンバーズ・ホテル (海外文学セレクション) ダーモット・ボルジャー編 茂木健一訳 「フィンバーズ・ホテル」
知人にカズオ・イシグロを貸したら代わりに貸してくれた。急がないというのでもう数ヶ月借りているが、昨日書いたような事情もあり全然読んでなかった。昨日になって初めてページを開いた。アイルランドはダブリンにあるホテルが舞台。ある一夜をそれぞれの泊まり客を主人公に描く短編連作ということになると思う。101号の泊まり客から107号の泊まり客まで。だから七編あるんだけどそのそれぞれを別々の作者が、つまり計七人の作者が書いている。誰がどれを書いたかというのは秘密なのでアイルランド文学に詳しい読者ならそれを当てる楽しみもある。もちろん個人的にはどの作者も初めて読むからそこはあまり関係なかった。
驚かされるのは、どの登場人物も主たる短編以外のあちこちに顔を出していること。きちんとクロスオーバーしていて、立体感がある。これは編者の構成力の賜物なのかも知れない。あるいは人物たちを束ねる全体的な進行表みたいなのが最初にあって、作者たちは最低限その進行表だけは守って物語をつくったということかも知れない。もっと統率が取れていて、各物語はアウトラインのようなところまで準備され、各作者の個性は文体に現れているだけなのかも知れない。そんなことを思わせるくらい、全体がうまく機能している。
そしてそれぞれがそれなりの問題を抱えている。ある問題が泊まり客とホテルのスタッフとでかぶってしまったけどそれはまあご愛敬か。あるいはよく読めばそこには何か共鳴するものがあるのかも知れない。
とにかくおもしろいので個人的には格好のリハビリになった。続編もあるらしいけど、正、続共に、版元では在庫切れとのこと。
あと、全然余談だけど泊まり客はフロント階から一階へとエレベーターで上って行くように読める。イギリスの数え方だと日本の通常の一階はグラウンドになり、日本で言う二階を「一階」と呼ぶようなことを英語の授業で教わったような憶えがあるけど、そういうことなんだろうか。